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第2回
「感想戦」と「前パブ」
 「SEKAINOOWARI」という若手人気バンドのメンバーは「とにかくもっともっと売れたい!」と公言しています。と聞くと、「金のため?」と眉をひそめたくなりますが、高校球児に「なんで勝ちたいの?」と聞く人はいないでしょう。頑張っていい曲を作っているのだから、多くの人に届けたいと考えるのは、普通の感情です。
 
 面白いことに彼らは、アマチュア時代、メンバー全員で借金してライブハウスを作り、そこで演奏していました。売れるために、まず「ハコ(自分らの音楽に触れる場)」を作ったのです。「いい曲を作っているのになんで売れないんだ」と嘆くだけのアマチュアとは、発想も覚悟も行動力も違います。だから彼らは「売れた」のです。
 
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 いい本だから売れるべき、というのは、恰好の言い訳になります。いい本を作るのは大前提なのだから、ことさら主張する意味はないでしょう。必要なのは、売るための発想と覚悟と行動です。僕も模索中ながら、最近新たに2つの施策を試すようになりました。
 
 1つは「感想戦」。将棋の世界では、勝負後に勝者と敗者で棋譜を見直す場が組み込まれています。勝っても「もっといい手があったのでは?」と謙虚になる。負けても、どこがダメだったのかを反省し、次に活かす。この仕組みを出版でも取り入れるべきです。発売直後のパブラインの数字に一喜一憂するのはもうやめたい。初速が悪い時ほど「なぜ」と考える。それも編集者だけでなく、著者や営業、その他全員で。それが「次の売れる本」を作るために必要な努力(失敗を認めるのには勇気がいりますが)。さらに言えば、「売れた」時ほど「もっと売れたのでは?」と考えるべきでしょう。
 
 さて、もう1つの施策が「前パブ」です。市場調査をして、プロトタイプを改良し、十分なパブリシティを打ってやっと新製品を投入する。普通のメーカーであれば当然のことですが、出版ではなぜかほとんど行われていません。
 
 僕らがいま取り組んでいる「堀江貴文ミリオンセラープロジェクト」では、この前パブを実行に移しています。プロジェクトの狙いは読んで字のごとく、堀江氏の本――とりわけ「決定版」を作り、ミリオンを目指すこと。
 
 「SEKAINOOWARI」と同じように、こんなことを言うと、周りは「金の亡者」「ホリエモンは過去の人」「犯罪者」「中身がないのでは」と言います。しかし堀江氏は日本を本気で変えたい、良くしたいと思っている。色眼鏡なしにその考えに触れ、僕らは堀江氏の思想の根幹を伝えたいと願うようになりました。売るしかない、と。
 
 そこで今年11月9日の刑期満了に合わせてダイヤモンド社から刊行、事前に「cakes」やメルマガなどのウェブ媒体とも絡ませながら、これまでブラックボックスとなっていた取材や会議も公開しています。言うまでもなく、これらすべてが前パブとなるわけです。
 
 正解がどこにあるのか僕にはわかりません。でも、最善手を模索しながら、「売れる」ために日々活動していきたい思っています。勝っても驕らず、負けても腐らず。
 
(文責=冨田薫)
(2013年9月6日更新 /本紙「新文化」2013年9月5日号掲載)
柿内芳文プロフィール
星海社シニアエディター、星海社新書編集長。1978年、東京都町田市生まれ。慶應大学卒業後、光文社に入社。光文社新書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『99.9%は仮説』などを手がける。2010年、星海社へ移籍。星海社新書『武器としての決断思考』『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』などがベストセラーとなっている。新書編集歴11年の自称「新書バカ」。ツイッターアカウントは@kakkyoshifumi
               
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