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最終回
「消費期限」なんて、ない
 僕が編集に協力した堀江貴文さんの『ゼロ』(ダイヤモンド社)は、2つの問題解決≠同時に果たしたと思っています。
 
 1つ目は、堀江さん自身の問題解決。彼には強く「伝えたい」ことがあり、そのために本を50冊も書いているのに、伝わっておらず、「誤解」されたままだった。しかし今回『ゼロ』を執筆する過程で、伝え方を変える必要を知り、結果的に堀江さん自身の課題を解決することに繋がりました。
 
 2つ目は、読者の課題を解決したこと。人生に希望をもって、今日からの小さな一歩を踏み出すことに、『ゼロ』がいくらか貢献できているのではないでしょうか。
 
 世の中のあらゆる商売は問題解決を図るために存在していますが、本には、編集には、そして出版には、もっと様ざまなかたちの「問題解決」が可能なのではないか……。この1年、そんなことばかり考えていました。そこで新たなチャレンジをするために、僕はこの12月から株式会社コルクに合流することにしました。「星海社新書」レーベルは次の代に託します。
 
 コルクは、僕と同世代の編集者、佐渡島庸平と三枝亮介の2人が昨年立ち上げた会社ですが、僕が見るに「編集」や「出版」とは何かをゼロベースで考え直し、再定義しようと挑戦している会社です。
 
 つい昨日、東京・豊洲エリアの人口が大増加している(10年で2.8倍)、この時代に子供の数が増えすぎて小学校が足りない、という話を聞きました。これまでなら、「へー」で終わっていましたが、今では「そういう状況では、どんな問題≠ェ発生するのだろう?」、その問題を、編集の力によって解決できるのではないか、と考えるようになりました。
 
 例えば、30代の共働き世帯がタワーマンションを購入し、引っ越してくることが多いはず。おそらく彼らは、「子どもにきちんとした教育を受けさせたい」「仕事以外の時間を持ちたい」「地域との繋がりを築きたい」といったことを考えているでしょう。一方不動産会社は、自社のマンションの価値を高めて、競争に勝ちたいと思っている。そういったときに、たとえば「絵本」という切り口で、『ゼロ』のように複数の課題を同時に解決できるかもしれません。
 
 不動産会社と絵本の作家、版元、編集者をつなげる。タワーマンションに「絵本ルーム」をつくり、そこではアートの授業や食育なども行われる。子どもの遊び場、教育の場になり、地域住民の交流の場にもなるように設計する。そこで子どもを遊ばせている間に、親は自分の時間を過ごす。人気が出て、申込者が増加するーーこれはいま考えた僕の妄想ですが、このようにいろいろな価値や才能を集め、つなげ、編むことで、個人や組織の問題解決を図ることが、これからの編集者の役割にもなっていくような気がしています。本質的には、1冊の本をつくることと、あまり変わらないと思うのです。
 
 コルクを立ち上げた佐渡島庸平は、編集者の価値はこれからの10年でどんどん上がっていく、と断言しています。その10年を、僕はコルクという舟で、ワクワクしながら見ていきたいーー。
 
 出版に夢を見ている僕らの人生に「消費期限」なんてありません。現状維持もありえない。いつでも今が最高に充実しているために、これからも僕は、地道に一歩を踏み出していきたいと思っています! ご愛読ありがとうございました。
(文責=冨田薫)
(2013年12月13日更新 /本紙「新文化」2013年12月12日号掲載)
柿内芳文プロフィール
星海社シニアエディター、星海社新書編集長。1978年、東京都町田市生まれ。慶應大学卒業後、光文社に入社。光文社新書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『99.9%は仮説』などを手がける。2010年、星海社へ移籍。星海社新書『武器としての決断思考』『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』などがベストセラーとなっている。新書編集歴11年の自称「新書バカ」。ツイッターアカウントは@kakkyoshifumi
               
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