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第3回
エリオット・ベイ書店(上)
The Elliot Bay Book Company  住所:1521 Tenth Avenue Seattle WA 98122
写真=長田美穂
西海岸をリードする「伝説の書店」
 
 シアトルのエリオット・ベイ書店は、「伝説の書店」と呼ばれる。その伝説は、創業まもない1976年からバイヤーを務め、西海岸の書籍文化の顔となったリック・サイモンサン氏(写真)が作ってきたといっていい。
 
 この店は独立系の大型総合書店である。売場面積は560坪、新刊本15万タイトルを揃える。従業員は30人。
 店独自のヒットを生み出すのが特徴だ。無名の作家や海外作品に目を付けレビューを書く。出版社や著者と交渉して著者イベントをしかけ、地元メディアへのPRまでする。
リック・サイモンサン氏
 その後、大化けする著者は少なくない。一例は、村上春樹氏。1997年、『ねじまき鳥クロニクル』の英訳本が出版された時、村上氏は同店にやってきた。
 「当時はまだ、アメリカでは数作品が翻訳されただけで、そう知名度はなかったんだ」とサイモンサン氏。「でもシアトルの日本人コミュニティーは、彼はサイン会なんて日本ではしない、本当に来るのか、と大騒ぎ。何百人も人が集まった」

 

 
 オバマ大統領も、一例に挙げていい。06年、上院議員として2冊目の自伝を出した時、サイモンサン氏の片腕、カレン・マエダ・オールマン氏は「おもしろい人生だ」と著者イベントを企画。オールマン氏は、宗教団体、患者会など、様ざまな人脈をもつ。
 オバマ氏は人気上昇中ではあったが、まだ大統領選出場宣言の前。アフリカ系米国人の教会司祭や地元高校に働きかけ、動員を依頼した。イベントには2000人が集まった。

 
 同店は73年、初代創業者夫妻によって設立された。3年後、学生だったサイモンサン氏は、大工作業の手伝いとしてスタッフに。「以来、ずっと新しいことを手がけてきた」と話す。
 79年には早くも書店内カフェを開設。著者イベントは84年から。日中は大混雑するカフェの、夜間活用法として着想を得た。
 「全米で最初だったかは不明だけど、同時多発的に、西海岸の数店がそうしたイベントを始めたころだった」。今、同店のイベントは毎月50件超。全米で最多、かつ最も影響力があると評価されている。

 
 なぜこうした新しい書店文化が、シアトルで花開いたのか。
 「雨のせい?」とサイモンサン氏。シアトルは雨の多い街。その影響か、インドア派の本好きが多い。やや内省的で思想はリベラル。スターバックスが象徴するコーヒー文化も「本好きの多い風土とマッチしたからだ」という。

 
 しかしその繁栄も、08年のリーマン・ショック以降の不況には勝てなかった。エリオット・ベイ書店は、ある大決断を迫られた。
レビューがびっしり

(長田美穂・フリージャーナリスト)

(2012年4月13日更新  / 本紙「新文化」2012年4月5日号掲載)
 
長田美穂氏のプロフィール
 
長田氏は1967年奈良県生まれ。東京外国語大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。99年に退社し、2010年秋よりシアトル在住。著書に『ガサコ伝説「百恵の時代」の仕掛人』(新潮社)、『問題少女―生と死のボーダーラインで揺れた』(PHP研究所)がある。
               
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