出版業界 専門紙 新文化 出版業界スケジュール 情報掲示板 連載コラム 編集長のページ
第7回
レフトバンク・ブックス(上)
Left Bank Books 住所:92 Pike Street, Seattle WA 98101
写真=長田美穂
観光地にある「アナーキズム」の店
 
 魚や野菜、生花の店が並ぶ、シアトルきっての観光名所、パイクプレイス・マーケット。年中、人で溢れる商店街の入口に、かれこれ40年、小さな居を構えている書店がある。「レフトバンク・ブックス」だ。
 扉をあけた瞬間に臭いがしそうなほど個性的な店だと分かる。1、2階合わせてわずか28坪、そこに推定1万冊の本、雑誌、小冊子(ジンと呼ばれる個人出版物)がひしめく。
2階からレジをのぞむ
 
 新刊、中古本が同じ棚に並び、どの本も在庫は1冊のみ。本の数は多くない。展示にもさしたる工夫はない。でも、頭のいい人の書斎を覗いた時に感じるような、吸引力のある棚がこれでもかと並んでいる。
 店のテーマは「アナーキズム」。日本語では「無政府主義」との訳語があり、共産主義と並ぶ死語のような印象をうけるが、ここシアトルでのニュアンスは異なる。
 
 貧富の格差に反対したり、行き過ぎた個人主義より相互扶助を訴える等々、多くの人が共有するリベラル志向の問題意識を、アナーキストと自称する人たちは、やや強くもつ。なかにはデモで銀行のガラスを割ったりする輩もいるが、それは極端な一群だ。
 そのせいだろう、書棚は難解なものばかりではない。「自給自足」の棚には、環境に優しいガーデニングやオーガニックな料理の本が並ぶ。文学、SF、子育て、フェミニズム、移民、アメリカ原住民、社会変革。
店の入り口付近
 
 もちろんアナーキズムや政治思想の棚も。さらに、レフトバンク・ブックスによる「自社出版物」もある。
 入口付近には『ハンガー・ゲーム』など売れ筋の本が少しだけ。
  「積極的に置きたいわけではないけれど、経営的にはこういった人気新刊本に支えられているから」と、店員のリサ・スターディバントさん(30)は説明する。
 
 
 カート・ヴォネガットの小説や、言語学者ノーム・チョムスキーなどが「売れ筋」の場所に並ぶ。伝記は置くが『スティーブ・ジョブズ』は置かない。店の精神に反するからという。正直なところ、この品揃えで、経営は大丈夫かと心配になった。
 日曜日1時間半、レジの前で眺めてみると−−。5、6冊まとめ買いする客、本数冊にTシャツ、雑貨を「クール!」と大喜びで抱えていく客。
入り口付近の棚も個性的な本が並ぶ
 
 万人受けはしないが、好きな人には大いに愛される店、らしい。
 大もうけはしないが、採算はとれていると店員はいう。実はこの店に社長はいない。ワーカーズコレクティブ、つまり協同組合方式で、8人のメンバーと20人のボランティアが、店を動かしているのだ。

 

(長田美穂・フリージャーナリスト)

(2012年6月15日更新  / 本紙「新文化」2012年6月7日号掲載)
(次回は6月29日ごろ更新予定です)
長田美穂氏のプロフィール
 
長田氏は1967年奈良県生まれ。東京外国語大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。99年に退社し、2010年秋よりシアトル在住。著書に『ガサコ伝説「百恵の時代」の仕掛人』(新潮社)、『問題少女―生と死のボーダーラインで揺れた』(PHP研究所)がある。
               
購読お申込み
「新文化」案内
会社概要
アクセス・地図
出版物
お問い合せ
メール送信
リンク

新文化通信社