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第9回
リチャード・ヒューゴ・ハウス(上)
Richard Hugo House 住所:1634 11th Avenue Seattle, WA 98122
写真=長田美穂
作家に奨学金、書き手を支える拠点に
 
 書店やカフェの並ぶシアトル・キャピトルヒル地区にたたずむ古い木造の館。詩人リチャード・ヒューゴの名にちなみ、リチャード・ヒューゴ・ハウスと名付けられたこの建物は、作家志望者や詩人など、この地のライター(物書き)には大いに知られる。
 
 このような機能をもつ場所は日本にはないだろう。しいていえば、プロ、アマチュア問わぬライターのための「産業会館」か。
事務局長のツリー・スウェンソン氏
 
 書く作業には時間がかかる。生活のための仕事に追われ、執筆を諦める人も出る。孤立しがちになるライターたちを支える場として、ヒューゴ・ハウスは、97年からこの場所で、非営利団体の手で営まれている。
 
 「シアトルは全米でも有数の読書の盛んな街ですが、作家の多い街としても有数。作家志望者も多いのです」と事務局長のツリー・スウェンソンさん。
 
 ユニークなのは「奨学生制度」だ。毎年1人か2人が選ばれ、毎月500ドルとオフィスを建物内に与えられる。99年に始まったこの制度、第一期奨学生は、日本では柴田元幸氏の訳で人気の女性作家レベッカ・ブラウン氏だった。
 
 奨学生に課されるのは、ライター志願者と面会したりメールをやりとりして、彼らの相談にのることだ。
 
創作クラス
 
 夜、部屋をライターに開放して執筆に使ってもらう「ライティング・タイム」、ジンと呼ばれる個人出版物を収拾する全米最大の「ジン図書館」、月1回、ビールを一缶1ドル、ワインを一杯1ドルで提供する朗読イベントなど。あそこへ行けば何かある、と思わせる場所になっている。
 
 運営資金はどこからくるのか。最大の収入源は、ライターのための「書き方講座」である。年間およそ120の講座が用意されている。
 
 出版物を出した経験のある新人・中堅の作家や詩人が、物語の構成方法やシーン設定など、プロとして書く上での技術を、ライター志願者に教える。生徒にとっては身近なプロの助言を得、同じ志をもつ仲間と知り合う機会になる。
 
 講師にとっては、副収入のチャンスになる。時給約9ドル×生徒の数が講師料になるので、集客力のある企画が求められるのだ。
 
 受講料は安くない。筆者の見学した「物語の筋とキャラクター設定」の講座は、2日で合計10時間で230ドル。
入口のドア
 
 生徒は13人の女性と男性1人、執筆歴は様ざまだ。「科学ライターだった」、「季刊誌に作品が載った」、「オンラインで小説を発表した」、「5年間書き続けているけど、1作も完成していない」など。
 
講師は大学院で創作執筆を教える大学教授と中堅作家のペア。「小説と自叙伝のクラスは不動の人気です」と担当者。  全員が真剣そのものだった。
 

(長田美穂・フリージャーナリスト)

(2012年7月18日更新  / 本紙「新文化」2012年7月5日号掲載)
長田美穂氏のプロフィール
 
長田氏は1967年奈良県生まれ。東京外国語大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。99年に退社し、2010年秋よりシアトル在住。著書に『ガサコ伝説「百恵の時代」の仕掛人』(新潮社)、『問題少女―生と死のボーダーラインで揺れた』(PHP研究所)がある。
               
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