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第11回
セミナリー・コープ書店(上)
Seminary Co-op Bookstore 住所:5757 South University Avenue Chicago, IL 60637
写真=長田美穂
ノーベル賞学者らの御用達
 
 シカゴに出張があったので、学術書で全米一、と評されるセミナリー・コープ書店を訪ねてみた。シカゴ大学の傍にあるこの書店には、同大が輩出するノーベル賞受賞者など、世界的な業績を誇る学者がこぞって来店する。
 
 「経済学賞ならゲーリー・ベッカー(1992年)、ロバート・フォーゲル(93年)、ジェームス・ヘックマン(00年)など。みんな会員です」。店長のジャック・セラ氏はいう。
 店は「コープ」(協同組合)の名の通り、会員5万4000人による出資金を元に運営されている。
 
 ノーベル物理学賞(83年)のスブラマニアン・チャンドラセカール氏は、セラ氏との会話を愛し、没後、自分の灰をまいてほしいと遺書に挙げた5カ所のうちの1つが、このセミナリー書店の庭だった。シカゴ大で教鞭をとっていたオバマ大統領も80年代からの会員で、今も一家で来店する。
 
 店は、シカゴ大が所有する古いビルの、地下一階に、ひっそりと迷路のように広がっている。店舗面積は95坪。その名声と比べると大きな店ではないが、「窓がない分、すべてを本棚に使えるので本棚の容量は大きい」とセラ氏。全長2700メートルに及ぶとか。本棚には14万3000タイトルが、一冊ずつぎっしりと並ぶ。
 
 多くの書店が、店員によるお勧め本のレビューを販促策に活用する中、ここではレビューは一本もなし。「僕が拒否しています。理由は、どの本も面白いと思っているから」とセラ氏。
 
 人文科学、社会科学、一部自然科学までと扱うジャンルは膨大だが、書棚は、まるで究極の整理術のようにシンプルに分類されている。
 
店長のジャック・セラ氏とフロントテーブル
 
 区分けはざっくりと「経済学」「政治学と社会学」といった具合。各棚が著者名のアルファベット順に並ぶ。
 
 しかし名門大学は全米にシカゴ大だけではない。なぜこの店が、全米一の学術書店と賞される存在になったのか。
 
 全書籍を一人で買い付け、40年以上の間、店の一席にいつも座り続けている博覧強記のセラ氏の存在が、その答えの一つ。もっとも当のセラ氏は、こう言う。
 
 ニューヨークタイムズのインタビューをかつて受けた時、客に本を勧める秘訣について聞かれて、気がついたんです。僕が客に本を勧めるより、客から僕が本を勧められる方が、何倍も多いって」。いわく、毎日、多くの人と、短いけれど面白い議論をする。それがアイデアの源となる。
 
 要は、来店者との会話によって店は育てられたと。セラ氏は「ここ以上に刺激的なコミュニティがあるとは、僕には思えない」とも話す。 

(長田美穂・フリージャーナリスト)

(2012年8月22日更新  / 本紙「新文化」2012年8月2日号掲載)
長田美穂氏のプロフィール
 
長田氏は1967年奈良県生まれ。東京外国語大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。99年に退社し、2010年秋よりシアトル在住。著書に『ガサコ伝説「百恵の時代」の仕掛人』(新潮社)、『問題少女―生と死のボーダーラインで揺れた』(PHP研究所)がある。
               
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