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第19回
シアトル・ミステリー書店(上)
Seattle Mystery Bookshop 住所:117 Cherry St. Seattle, Wa 98104
写真=長田美穂
最高の顧客は推理作家
 
 シアトルのダウンタウンの一角に位置する、シアトル・ミステリー書店。店主のJ・B・ディッケイ氏によると、「全米でおよそ20店」存在する推理小説の専門書店の1つだ。
 
 店の前を通るたびに、気になっていた。ミステリーだけを扱う、54坪の小さな書店。この書店受難の時代に、割高なダウンタウンの賃料を払いながら、どう運営をしているのか。
店内と作家のサイン会
 
 ある土曜の午前中、2組の作家による新作サイン会を覗きに行ってみた。どんな人々がこの店を支える顧客なのかを知りたかったからなのだがーー。なかなか「客」がいないのだ。
 
 店内に人はいる。けれども、お話を聞かせてもらせませんかと声をかけると、「私は作家なの。私の作品もここにあるのよ」と答える人が続く。
 
 1時間経っても、作家の前にファンが列をつくるという光景は現れない。そうこうするうちに、「作家だ」と答えた人たちが、今日のサイン会の主役である作家たちと並び、ミステリー書店の店員のカメラで記念撮影を始めた。
 
 どうやら作家のサイン会は、作家同士の交流会の役割を果たしているらしい。
 
サイン会の様子
 
 「そう。地元作家のサイン会には、シアトル近郊に住む作家が仲間へのサポートのために、たくさんやってくる。作家コミュニティのイベントのような側面もあるんだ」。ディッケイ氏はさらにこう教えてくれた。
 
 「作家は店にとって、いい客なんだ。店に来ると何か買っていく。とりわけ大手出版社が連れてくる全国ツアー中の作家は最高だ。旅の道連れにと、ここシアトルを舞台にした作品を何冊も買ってくれるよ」
 
 創業者が1990年に開店した時、「人と本に出会える店」を理想に掲げた。地元の作家が同業の作家と出会ったり、読者とつながることも店の役割の柱だと考えてきた。
 店のウェブサイトには、近隣の州も含めた地元作家のリストがずらり。作家志望者のために、推理小説を書く上での基本事項などのアドバイスも載せている。
 「90年代にはまだ、地元作家は少なかった。近年はITの普及で自費出版や電子出版が可能になり、作家が急に増えた」とディッケイ氏。自身は開店まもなく店の手伝いを始め、98年に経営権を譲り受けた。
シャーロック・ホームズの棚
 
 この日のサイン会では、2人組の作家「ウェイバリー・カーチス」さんが、シアトルを舞台に、独身女性とチワワ犬のコンビが探偵として活躍するペーパーバックを携えていた。
 
作者の1人、カート・コルバート氏は、個人名での作品も出してきた人気の地元作家だ。ベトナム戦争従軍後、食品コンサルタントの仕事を経て今は執筆に専念している。「チワワ・シリーズの第二弾出版も決まっているんだ」と意気込んでいた。
 

(長田美穂・フリージャーナリスト)

(2013年3月8日更新  / 本紙「新文化」2013年2月14日号掲載)
長田美穂氏のプロフィール
 
長田氏は1967年奈良県生まれ。東京外国語大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。99年に退社し、2010年秋よりシアトル在住。著書に『ガサコ伝説「百恵の時代」の仕掛人』(新潮社)、『問題少女―生と死のボーダーラインで揺れた』(PHP研究所)がある。
               
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