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第6回
ブックスタートが果たした役割、赤ちゃん絵本市場の活況生む
 すべての赤ちゃんに絵本を手渡す「ブックスタート」は、英国の児童書コンサルタント「ウェンディ・クーリング」が、本との触れ合いをもたずに育った子どもたちの存在に気づいたことから、1992年、慈善教育団体「ブックトラスト」が中心となり、バーミンガムで始まった。
 
 日本に紹介されたのは2000年の「子ども読書年」が契機。出版業界の理解と協力のもと、01年にブックスタート支援センター(現・特定非営利活動法人ブックスタート)が設立され、同年、12の自治体でスタートした。
 
 ブックスタート統括マネージャーの斉藤かおり氏は、「首長、議員、役所の職員、地域のボランティアなど、官民を問わずきっかけとなった人から『うちもやろう』という声が各地で上がりました。子育て支援、母子保健、子どもの読書推進など自治体での予算(計画)の位置づけも様々ですが、19年7月31日時点で1050市区町村(全自治体の約60%、NPOブックスタート調べ)が取り組んでいます」と話す。
 
 絵本を渡すのは、受診率が9割以上を超える乳児健診の会場で行われることが多い。ただ渡すのでなく、親の目の前で絵本を開き、赤ちゃんがどんなふうに絵本に反応し楽しむかを体験してもらう。「すべての赤ちゃん」が対象のため、視覚障害者向けの点訳サービスもある。また、近年の外国籍の新生児数の増加や、国籍の多様化を受け、11カ国語での資料も用意している。
 
 日本のブックスタートは絵本を「教材」とは位置づけず、したがって早期教育が目的ではない。あくまでも「絵本を開くことで生まれる親子の触れ合いを通じ、すべての赤ちゃんにあたたかい時間を届ける」ことが趣旨である。英国でも日本でも、受け取る人を対象に調査が行われており、読書冊数や図書館の利用頻度などに、この活動のポジティブな効果が確認されている。
 
 今日の日本の児童書市場堅調の背景に、「朝の読書」と並びブックスタートの存在があるのは否定できない。その普及以前は、「赤ちゃんに絵本はまだ早い」「絵本を通して赤ちゃんと触れ合うやり方がわからない」と考える大人が少なくなかった。しかし今や赤ちゃん絵本の市場は拡大、書店や図書館でも専用の棚・コーナーが増えた。それが主たる目的ではないとはいえ、ブックスタートは読書推進活動として見ても、異例の成功を収めたといえる。
 
 とはいえ、課題もある。
 
 「未だ実施していない自治体についてその理由を探ると、予算の問題に加え、お子さんのいない家庭では存在自体を知らない方も多い。現場を担って下さる人が足りないケースもあります」(斉藤氏)
 
 今後、認知度向上に取り組むだけでなく、フォローアップしていきたいこともある。同事務局長の小林浩子氏は、その一例として「近年、地域コミュニティの交流の場にもなる書店が増えていると思いますが、ほとんどの自治体のブックスタートは、地域書店との連携はないようです。今後、一緒に何ができるかを考えていければ」と話している。

(飯田一史・ライター)

(2019年9月19日更新  / 本紙「新文化」2019年8月29日号掲載)
飯田一史プロフィール
ライター。 文芸とサブカルチャーを中心に取材・執筆を手がける。著書に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)などがある。
               
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