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第7回
「銭天堂」シリーズ90万部、非日常空間・駄菓子屋の魅力
 2018年の「小学生がえらぶ!子どもの本¢国I挙」で第9位となり、朝の読書でも人気の高い、廣嶋玲子『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』(偕成社)。
 
 着物姿の年齢不詳の女主人・紅子が営む駄菓子屋には、様々な悩みをもつ人が迷い込む。客は自分の虫歯を誰かに移すことのできる「虫歯あられ」や、食欲をコントロールできるようになる「コントロールケーキ」といった不思議なお菓子を硬貨1枚と引換えに買っていくが、使用法を守らなければ、恐るべき副作用に苦しむことにもなる。
 
 子どもばかりが主役を張るのではなく、巨体のおばちゃん・紅子の元へ老若男女がやってくる連作短編集スタイルは、児童向け読みものとしては異色だろう。
 
 では、どこが読者にとくに好まれているのか。まずカバーイラストからして伝わってくる紅子の強烈な存在感と、登場キャラクターたちのインパクト。そして「お客がこの後、幸せになるのか不幸になるのか、読者に予想がつきにくい。必ずしも善人がハッピーエンドで終わるわけではない」(偕成社編集部・早坂寛氏)という、ストーリーの意外性だ。
 
 主な読者層は小学校中学年〜高学年の男女だが、作者の廣嶋氏は、「ちょっと大人っぽすぎるかなと思った恋バナや、悪い主人公が容赦なく罰を受けるようなエピソードが人気ですね」と話す。
『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂12』
 
 さらに、「登場人物が手厳しい報いを受けるときには、担当の早坂さんから『子ども向けなので、これはちょっと』と言われ、直すことがよくあります(笑)」。そのくらい手加減は控えめだ。
 
 それまでまったく本を読まなかった子が、本書で初めて完読したという声が多数届くほど読みやすく書かれてはいるものの、物語は予定調和でなく、時には毒もある。それがかえって、子どもの好奇心や怖いもの見たさを刺激するのだろう。
 
 このシリーズでは、カバーに描かれた紅子の姿を覆い隠すほどの高さの帯が巻かれているが、これは書店店頭で「捲ってみたい」という気持ちを喚起するためだ。
 
 そして不可思議な駄菓子の数々を見ると、自分でも考えてみたくなる。11巻の発売時に、読者からオリジナル駄菓子のアイデアを募って作者が優秀作を選出し、ストーリーをWEBに登場させるというキャンペーンを行ったところ、なんと1600通以上が集まった。
 
 作者にとって、幼少期に通った駄菓子屋は、様々なお菓子がひしめき合い、奥の座敷からおばばがじろりと視線を放つ、別世界のような場所だったという。
 
 今の子どもたちにはなじみが薄いだろうが、逆に言えば駄菓子屋は「非日常の場」である。小銭で買えるお菓子を売っているという親近感と、別世界感が共存する絶妙な空間であり、読者が想像力を膨らませるのに格好の場所だ。
 
 シリーズは既刊11巻までで90万部超。19年10月発売の第12巻から第2シーズンが始まり、紅子の新たなライバルが登場する。まだまだふしぎ駄菓子屋の世界は広がっていきそうだ。
 

(飯田一史・ライター)

(2019年10月17日更新  / 本紙「新文化」2019年9月26日号掲載)
飯田一史プロフィール
ライター。 文芸とサブカルチャーを中心に取材・執筆を手がける。著書に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)などがある。
               
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