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第8回
ボカロ発「カゲロウデイズ」、小説・学参・コミックスが好調
 2011年にじん≠ェニコニコ動画への楽曲投稿をきっかけに始めた「カゲロウプロジェクト」は、ローティーンを中心にブームとなり、音楽、小説、マンガ、アニメと、多面的に展開された。だが13年に音楽編が完結(18年再開)、14年にTVアニメの放映が終わると、以降あまり大きな動きはなく、小説はおおよそ年1冊とこの手の本としては刊行ペースは遅かった。
 
 にもかかわらず、小説『カゲロウデイズ』は、学校読書調査(最新18年5月分)で、中学生の男女および高1男子が読んだ本ランキングに入った。また14年から刊行されている中高生向け学習参考書シリーズは今なお売れ続け、累計部数は小説400万部、コミックス450万部、学参が50万部に達する。
 
 このことはつまり、本書の読者として下の世代が絶えず新規に入ってきていることを示す。それはなぜか?
 
 「芸能人並みの人気を誇る歌い手=iネット出身の歌手)がカバーした楽曲がYouTube上にたくさんある。またボーカロイドの歴史を辿ると、必ずカゲプロ≠ノ行き着く。そこでハマって小説や学参に来る子もいる」(KADOKAWA学習参考書第2編集課・黒田光穂氏)。
 
 しかしこれだけでは、HoneyWorks作品と「カゲロウデイズ」を除き、他のボカロ小説(ボーカロイドを使用した楽曲が原作の小説)がほとんど動かない理由が説明できない。しかも「久々に新曲が出たからといって、小説の売上げが大きく変わるわけではない。それでもずっと年2、3回重版がかかる」(同戦略書籍編集部・屋代健氏)という不思議な売れ方なのだ。
『カゲロウデイズで中学英単語が面白いほど覚えられる本』
 
 版元が特段プロモーション展開を仕掛けるわけではなく、新刊の告知は、じんなど関係者のTwitterの効果が大きいという。しかしSNSだけで、新規読者が小説を第1巻から読む動機がどれだけ作れるのかは疑問である。併買本が「殺戮の天使」「約束のネバーランド」「文豪ストレイドッグス」「Re:ゼロから始める異世界生活」などであることから見ると、ダークでスタイリッシュな作品を好む層に受けているようだ。
 
 「小説『カゲロウデイズ』は、読者と等身大の子どもたちが苦悩しながら巨大な謎と戦うというかっこよく、心に刺さる物語≠ニして支持されているのではないか。友達や先輩後輩から『読んでみて』と言われて読んだ、という声をよく聞く。学校図書館からも『図書だよりに書影を載せたい』という問合せが今も毎月のようにある」(屋代氏)。
 
 「カゲプロ≠ノは大人がほとんど出てこない。なので学参でもそれを貫いている。自分たちと年齢の近い等身大のキャラたちと一緒に勉強できるのが、人気の秘訣なのかな、と」(黒田氏)。
 
 筆者は本書に、『リアル鬼ごっこ』などの山田悠介作品や、金沢伸明『王様ゲーム』に近いものを感じる。これらは中学生の琴線に特別に触れる内容ゆえに、クチコミで長く売れ続けている。『カゲロウデイズ』の書籍も、そうした新定番作品≠ノなっているのかもしれない。
 

(飯田一史・ライター)

(2019年11月21日更新  / 本紙「新文化」2019年10月24日号掲載)
飯田一史プロフィール
ライター。 文芸とサブカルチャーを中心に取材・執筆を手がける。著書に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)などがある。
               
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