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第9回
200万部超え「リリアーネ」シリーズ、可愛い絵と裏腹の硬派な内容
 日本では2010年から刊行され、シリーズ累計200万部超の、タニヤ・シュテーブナー『動物と話せる少女リリアーネ』(学研プラス)は、主人公の少女・リリアーネ(リリ)が親友の天才少年イザヤとともに、動物たちをめぐる事件や問題に立ち向かう物語である。リリは動物と話せる能力ゆえに魔女と揶揄され、引越しや転校を繰り返しているが、その悲しみや、動物のために自分の秘密をも公にする勇気などの心情が、ていねいに描かれている。
 
 日本語版刊行にあたっては、イラストを日本人好みのかわいらしいものに変更し、絵の点数を原著より増やした。書店で平積みされたとき目に付くように「きらびき」というキラキラした紙をカバーに使い、動物の会話が視覚的にわかるように本文の書体を変えるなどの工夫を施した。
 
 またドイツ語の原著では一人称はみな「ich」だが、中村智子氏の訳による日本語版では「おいら」「わたくし」などと使い分け、誰が話しているのか読者を混乱させないような配慮もしている。
 
 少女マンガのような絵柄ではあるが、リリとイザヤの恋愛は(現時点では)描かれていない。一方、ライオンとトラの種を超えた愛や、ペンギンのオス同士の同性愛は描かれる。さらにリリの父親は主夫として、バリバリのキャリアウーマンの妻やリリを支え、祖母は機械や工作に強いという設定。『リリアーネ』はこのように、反レイシズムやLGBT、ジェンダーなどに対する意識が高く、多様なかたちの愛や家族のありかたを、声高にではなく説教くさくもないかたちで描く。
『動物と話せる少女リリアーネ』
 
 「もし動物と話せたら?」という、誰もが憧れるキャッチーな入口を用意してはいるが、作中で扱われるのは密漁や動物虐待など。動物愛護、絶滅危惧、環境破壊に対する警鐘もテーマになっている。
 
 たとえば第12巻は、アフリカのナミビアが舞台。欧米人のトロフィーハンティング(野生動物の皮を剥いだり、剥製にしたりするスポーツ狩猟)が同国の観光資源である。それを拒否すれば現地の人の生活は立ちゆかなくなるが、それでも動物を守るのか? それとも……と、作者はリリたちに、そして読者に問いかける。
 
 「小学校中〜高学年が主な読者ですが、小3、小4の子どもたちからは、『初めて小説をひとりで全部読めた!』『リリ楽しい!』という感想が多く寄せられます。高学年になると、物語と国際的なニュースとがリンクしていることに気づき始め、『将来は環境を守る仕事に就きたい』といった感想もいただくようになります」(学研プラス幼児・児童事業部絵本・読み物編集室読み物チーム・岡澤あやこ氏)
 
 2019年の今年は、地球温暖化に警鐘を鳴らすスウェーデンの少女、グレタ・トゥーンベリさんが話題になったが、大人よりむしろ子どもの方が、地球の未来を自分のこととして捉え、真剣に危ぶむものだと思う。この魅力的な物語に織り込まれたメッセージは、日本の子どもの心にもしっかり届いている。
 

(飯田一史・ライター)

(2019年12月19日更新  / 本紙「新文化」2019年11月28日号掲載)
飯田一史プロフィール
ライター。 文芸とサブカルチャーを中心に取材・執筆を手がける。著書に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)などがある。
               
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