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第11回
「マジック・ツリーハウス」の魅力 刊行28年、世界で1億5000万部
 主人公のジャックとアニーが、ツリーハウスで出会った司書・モーガンの導きで世界各地の様々な時代へと旅立ち、歴史的な場所や事件・人物に遭遇しながら、依頼されたものを手に入れて帰ってくる。メアリー・ポープ・オズボーン作『マジック・ツリーハウス』は、全世界で1億5000万部、日本では食野雅子訳で550万部超えの超人気シリーズだ。
 
 日本の出版元はKADOKAWA。きっかけは編集者の豊田たみ氏が、小学1年生の息子から、「朝読で読む本がない」と言われたことだった。豊田氏はこの作品を、低中学年向けにパンパンのランドセルにも入るコンパクトな四六判並製として、2002年に刊行を開始した(原著は1992年より刊行)。
 
 そんな判型の児童書は当時、類がなかった。その頃学校図書の選定基準は、「上製本であること」と定められていたという(のちにその一文は削除)。書店からは「このサイズの本を入れる棚がない」。
 
 厳しいスタートだったが、必死の書店営業により5巻目から売上げが急増。その後「デルトラ・クエスト」(岩崎書店)が同様の四六判並製でヒットし、同時期に青い鳥文庫(講談社)も伸長したため、児童書棚には四六判や新書判の並製本がずらりと並ぶようになった。
北極圏が舞台の最新刊
 
 「マジック〜」は、マンガのようなポップなイラストゆえか、当初懐疑的な教師や司書もいないではなかった。だが、子どもが楽しんで読むうちに歴史や地理の知識が身につく学習的要素が徐々に認識され、総合学習や研究授業の教材に採り入れる学校も現れた。プレジデント社の雑誌「プレジデントFamily」19年10月号で発表された「東大生が小学生時代に読んでいた本」ランキングでは、「ハリー・ポッター」に次ぐ第2位にランクインしている。
 
 このシリーズは、成績向上に資するだけでなく、人命に関わる知識ももたらしている。
 
 「東日本大震災の後、メアリーさんと東北の学校を回った時、子どもたちから『潮が引いたらすぐ高台に逃げなきゃ!「マジック・ツリーハウス」のハワイの話(第14巻「ハワイ、伝説の大津波」)に書いてあったよ!≠ニまわりの大人に伝えた』という話を聞きました」(文芸局学芸ノンフィクション編集部・豊田氏)。
 
 さらに著者は、被災地の子どもたちの「サッカー選手出して!」といった無数の要望に触発され、ペレが登場する第38巻『サッカーの神様』などを執筆、期待に応えた。
 
 実は日本版は著者と相談のうえ、日本の子どもにはなじみの薄い歴史的事実の補足説明やエピソードの加筆がなされ、解説ページが設けられている。
 
 アイルランドの口承文芸を専門とする著者は、語り部が相手に合わせて言葉を補い、「より面白く」ローカライズすることは歓迎なのだという。
 
 「今後も長く続けて、欧米圏のように日本でも、親子二世代で愛される作品になるようにしたいですね。毎回のテーマ選びが絶妙で、内容がまったく古びませんから」と豊田氏は話す。
 

(飯田一史・ライター)

(2020年2月20日更新  / 本紙「新文化」2020年1月30日号掲載)
飯田一史プロフィール
ライター。 文芸とサブカルチャーを中心に取材・執筆を手がける。著書に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)などがある。
               
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