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第17回

まずは「おもしろい動き」から発想/「あかちゃんしかけ絵本」シリーズ

  2016年11月刊の『クリスマスパーティーはじまるよ!』『サンタさん どこにいるの!』から始まる、ひらぎみつえ作「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」シリーズ(ほるぷ出版)は、現在全17点で累計120万部。なかでも『お?かお!』の25万部と、『ころりん・ぱ!』(写真)の30万部が、とくに大きなヒットとなっている。
 
  しかけ絵本といえば従来、ページを開くと建物が立体的に立ち上がるような、手の込んだものが多かった。一方、このシリーズは、「ページをスライドさせる」など、しかけとしては簡易だ。だが『お?かお!』は、本の全面に描かれた顔の表情が変化、『ころりん・ぱ!』は、本にレールとなる溝があって輪っかを転がす、といった斬新な発想で作られている。
 
  しかけ絵本は、実際に動かさないとその良さが伝わらないが、破損への危惧から書店ではシュリンクされることもある。そこでほるぷ出版では、『お?かお!』『ころりん・ぱ!』のしかけを再現した、動く大型パネルを制作し店頭用に配付した。これが好評で、多数の書店で展開された。
 
  担当編集者の中村宏平氏は「ひらぎさんはユニークなところもあるけれど、真面目で考えすぎてしまうことがある。だからシンプルにおもしろさだけに専念できるよう、『ストーリーは考えなくていいので、かたちや色、音などの抽象的なものを作ってみたら』とお願いしたところ、出てきたのが『ころりん・ぱ!』でした」と振り返る。
 
  赤ちゃん絵本には、生き物・食べ物の名前や挨拶などを教えるようなお勉強要素≠含むものが多いが、ひらぎ作品では、顔が動く楽しさ、輪っかを動かす気持ちよさといった、感覚的な要素が際立つ。そしてむしろこのほうが、教育的効果があるようだ。
 
  赤ちゃん学の研究者である中央大学・山口真美教授は『お?かお!』について、「目で見るかたち、手で動かす触覚、『カクカク』といった言葉を耳で聞くのが一体になっており、認知能力の発達にとても良い」と評価する。
 
  もうひとつ、本シリーズが重視していることがある。まだ言葉が話せずリアクションも豊富ではない赤ちゃんに 対する読み聞かせは、子どもは喜ぶが親は退屈、逆に親は楽しいが子どもの反応は鈍い、となることもある。だが中村、ひらぎの両氏は、自身の子育て経験から「親子いっしょに楽しめる」ことを目指した。その結果、たとえば『ころりん・ぱ!』は、まず赤ちゃんが触りたがり、輪っか転がしが徐々に上達するのを見て親も喜ぶ。SNS上にはそんな様子を撮った写真や動画がたくさんアップされている。
 
  「制作にあたっては、『伝えたいことがあってしかけを考える』前に、『おもしろい動きにどんな内容を載せるかを考える』順番で発想してきました。10月刊行の『くにゃ?』は、まっすぐなものを引っぱるとくにゃっと曲がる、ふしぎな気持ちになる絵本です。そんなふうに、あまり見たことのない新しいしかけを、これからもかたちにしていきたい」とひらぎ氏は語っている。
 
 
 
 

(飯田一史・ライター)

(2020年7月30日更新  / 本紙「新文化」2020年7月23日号掲載)
飯田一史プロフィール
ライター。 文芸とサブカルチャーを中心に取材・執筆を手がける。著書に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうするの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)などがある。
               
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