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第10回
それも「読書」です。
 多くの人が仕事を納め終えた昨年末のある日、本を通じて知り合った友人3人と私の計4人で吉祥寺駅に集まった。目的は、誰からともなく言い出した「本の買い納め」。買い納めを宣言したところで、書店で本を買うだけなら日常と変わらない。今日の日を最大限に楽しむため、ルールをひとつだけ決めることにした。
 
 「最後にせーので一斉に紹介しあうまで、購入した本は見せない」
 
 短い時間でなるべく多くの書店を回るため、新刊書店、古書店ともに充実している中央線沿線に狙いを定めた。目標は6店舗。移動距離を考えると、少しの時間も無駄にできない。さっそく1店舗目へと向かう。
 
 書店の入口に到着するやいなや、それぞれ興味のある棚に散り散りになる。通路ですれ違う時は、相手の手元を見ないように気をつけなければいけない。いちばん神経をつかうのは、会計だった。支払いを済ませたあと、いかに素早く仕舞えるか。不審な動きをして、レジカウンターにいる店員を驚かせてはいけない。私たちには人知れず愉快なゲームの真っ最中でも、書店に流れる時間は年末の忙しない空気を滲ませた日常そのものだからだ。
 
 古書店で漫画を7冊まとめ買いした時はさすがにバレるのではと心配したけれど、口を広げたエコバッグを上からかぶせるという荒技でどうにか乗り切った。棚の隙間から友人たちの動向をうかがいながら、本を抱えて小走りで近づいてくる姿は想像するだけでも怪しい。
 
 私たちは結局、6時間以上かけて6店舗を回りきった。だれの鞄も本で膨れ、ひとりの鞄からは購入特典でもらったという世界地図のポスターが派手に飛び出していた。
 
 本は重い。肩に手のひらに、鞄の紐やビニール袋の持ち手を食い込ませながら、みんな達成感を滲ませた表情を浮かべている。
 
 「読む」という作業は孤独だ。感想を共有することは可能でも、読むという「体験」そのものを共有することはできない。ずっとそう思っていた。けれど、こうして半日ずっと一緒に書店を回ったあとに感じる心地よい疲労は、本を読んだあとの感覚にとても似ていた。
 
 背表紙に目を走らせ、表紙の感触を確かめ、ページを開く。目の前にある1冊に対してあれこれと考えを巡らしながら、私たちはすでに本を「読み始め」ているのかもしれない。同じ空間で同じ目的を持って動くうちに、自分でも気がつかずに読むという体験を共有している。読書という行為は、私が思うよりずっと多様で、始まりも終わりも実はもっと曖昧なものなのだろう。
 
 ファミレスに場所を移して始まった一斉お披露目会が、どれほど楽しい時間になったのかは、残念ながら文字数が足りないのでまたいつか。
 

(ライター・書評家)

(2020年1月23日更新  / 本紙「新文化」2020年1月16日号掲載)
               
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