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第25回
文芸誌で小説を読む
 最近、文芸誌の読書会というものを始めた。2月発売の文芸誌から始めてまだ2回。つい先日、3月売りの文芸誌で開催したばかりなのに、もうそろそろ新しい号が出るという。
 
 もともと熱心に文芸誌を買うタイプでなく、これまでも特集を楽しみに買うことはあっても、掲載されている小説を読み込むことは滅多になかった。単行本の体裁になってから「初めまして」して読みたい。もっと言えばそうしてやっと手にした新刊すら自分の側の準備、主に気持ちの決心がつくまで平気で何カ月も本棚で寝かせてしまえるような読者で、これは今も変わらずそうだ。読書会に誘われたことをいい機会と思い、2月、3月と文芸誌で小説を読んでみたけれど、これが思っていた以上に大変だった。
 
 読書会といっても1冊すべて読むわけではない。芥川賞と直木賞の候補に入る可能性がある小説のみを対象としているため、当日までに読む必要のある作品は6作か7作ほど。仕事をしながら、かつ自分の読みたい本を読みながらでも十分に読めるはずの分量だった。
 
 2月初めに、1回目の読書会に向けて各文芸誌を買い求めた。帰りの電車で早速目次を眺め、「連載」に並ぶ作家の名前とタイトルにいくつか興味を持つも、その下に添えられた連載回数の大きさを確認して諦める。文芸誌は電子書籍化されていないため、バックナンバーを読むまでのハードルがものすごく高い。作品ごとに電子書籍でばら売りしてくれたら嬉しいのにな。
 
 読み始めてすぐ違和感を抱くも、理由が分からないまましばらく読み進める。話の内容を掴みかけてきたところで、ようやく違和感の正体に気づく。読み始める前に、作品について得られる情報が少なすぎるのだ。
 
 本は情報のかたまりだ。中身を読む前に、私たちはそれを手にした時点で意識しているより多くの情報をすでに得ている。装幀は本の中身を反映したものだし、本に巻かれた帯の文章も、推薦文を寄せた著名人たちの職業も、複数人いればその組み合わせも、中身を予想するヒントになる。装幀家の1人ひとりに得意とする、または出版社側が頼みたいと思うジャンルがあるし、奥付も著者プロフィールも……と挙げていけばキリがない。
 
 作家名とタイトルとページ数と出版社。扉にイラストが添えられていることもあるけれど、基本的にはこれぐらいの前情報だけで読み始めることになる。作家の既出作品を読んでいれば比較しながら読み進めることも可能だが、単行本未発売の作家も多い。
 
 本で読む時の読書は「答え合わせ」に似ている。本のパッケージから読み取った情報が正しかったかどうか、の答え合わせだ。
 
 それに慣れた頭には、文芸誌の小説はまっさら過ぎて心もとなさを感じてしまう。けれど、未知のワクワクを心から楽しめるようになるためのリハビリだと思って、なんとか1年間は続けてみるつもりでいる。
 

(ライター・書評家)

(2021年4月22日更新  / 本紙「新文化」2021年4月8日号掲載)
               
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