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第31回
地層と暮らす
 元々は本を一冊読み始めたら読了しないと次の本に進めない性分だったはずが、いつしか数冊の本を併読するようになった。どちらの読み方にもそれぞれ利点があって、これからもその都度選んでいけたらと思っているけれど、併読には困ったことがいくつかある。その1つが読みかけの本が部屋中に散らばってしまうことだ。
 
 ベッド横のサイドテーブルはとうに定員オーバーで、すでに枕元にまで進出しているし、ご飯を食べるテーブルもパソコン用の机も、上にも下にも本が積み上がっている。本棚の前にも読みかけの本と読み返していた本が混在している書塔がいくつかできているし、昨日使ったリュックにも今日使ったトートバッグにもそれぞれ本が入ったままだ。
 
 少しだけ俯瞰して眺めてみると、ここ数週間の私がどこからどこに移動して、どこに留まったのか。地層を見て起きた出来事を推測するみたいに、積まれた本の背表紙を読むことで動線が浮かび上がってくる。幼い頃、使ったものを元の場所に戻すのが苦手でよく怒られていたけれど、散らかった様子を見れば、どこで何をしていたのか分かると呆れられたあの頃のまま大きくなってしまったんだなと思う。
 
 2巻が発売されたタイミングで気になっていた漫画「フールナイト」(小学館)を読む。日光が届かなくなった世界で、枯れ果てた植物に代わって酸素を供給するために人間を植物化する技術が発達した未来の話。同じように夜だけの世界を描いたSFがあったなと思い出して本棚を見るも、目当ての文庫が見つからない。
 
 『シオンズ・フィクション』(竹書房文庫)の中の一篇だったはずだけれど確かめようがない。自分がもし木だったら何になりたいかな、あ、そういえば、『レモンケーキの独特なさびしさ』(KADOKAWA)の主人公の兄はどうして椅子になってしまったんだっけ……。海外文学をまとめた本棚の前に座り、該当ページを探すうちにすっかり読みふけってしまう。
 
 ふと訳者の管啓次郎さんの『本は読めないものだから心配するな』(左右社)が文庫化していたことを思い出す。もう随分前に読んだ本だけど、風が好きだ、と書いてあったことだけ覚えている。風と肌。あぁ多分、管さんのデビュー作『コロンブスの犬』(河出文庫)の舞台、ブラジルの乾いた風と一緒に記憶されたんだなと気づく。
 
 往復書簡SFという感想を見かけて気になっていた『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』(早川書房)を読み始める。時空の覇権を争う二大勢力それぞれの工作員が様々な形で−−年輪やアザラシの内臓から出てきた未消化のタラや溶岩流にお互いメッセージを残すことで交流していく。時空を超えてやってくる、または待っている手紙。記憶が刺激される。昔読んだ小説に確か……。栞を挟んで立ち上がると、目処をつけた小説が並ぶ本棚に近づいて手を伸ばした。
 

(ライター・書評家)

(2021年10月13日更新  / 本紙「新文化」2021年10月7日号掲載)
               
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