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第12回 橙乃ままれ氏(下)
「現在」に対して誠実に
 「ログ・ホライズン」を「小説家になろう」に投稿する前には、「なろう」作品を100は読んだという橙乃ままれ氏。書き手であり読み手でもある橙乃氏に、ネット小説の魅力を語ってもらった。
 
 
 「まずは紙の書籍の1巻分のサイズに縛られずに物語を展開できることですよね。起承転結の『承』が延々続いていったとしても、それが魅力の作品もたくさんある。
 
 僕自身、『まおゆう魔王勇者』を2ちゃんねるに書いているときは本1冊分の起承転結なんて考えていなくて、書籍化するときちょうどいい区切りをつけるのに苦労しました(笑)。
橙乃ままれ『まおゆう魔王勇者 エピソード2 花の国の女騎士』
(KADOKAWA エンターブレイン)
 
 ただ『ログ・ホライズン』は最初から『紙の書籍を書く』練習がしたくて書きはじめたんです。だから3幕構成で1冊9章立て、1章3シーン構成の計27シーンで1冊分になるようにきっちり設計している。そういう意味では『ウェブの小説ならでは』の特徴の一部を放棄した作品ではあります」
 
 起承転結の縮尺の自由さに加え、作家同士があるテーマに関して並行して取り組んでいることが興味深いとも言う。
 
 「たとえば『異世界転生もの』が流行ったら、みんなで少しずつ差分を加えながら、有望な鉱脈を探るんですよ。『異世界転生で学園ものがおもしろそうだね』とかね。
 
 そのくり返しの中でパターンが洗練されていく。だから仮に作家同士の交流が直接的になくても、ライバル心も、連帯感もあるんです」
 
 ミステリがトリックや密室を、SFがタイムパラドックスやファーストコンタクトのバリエーションを蓄積していったような「ジャンル小説」の運動が、ネット小説でも起こっている。それを「似たようなものばかりが流行っている」と斬り捨てるのは野暮だろう。
 
 「あとは、何よりネットに作品を発表することの良さって、読者との距離が近くて反応が早いことと、『僕らの作品』と思ってもらえることですよね。いただいた指摘や感想を作品にフィードバックすることは本当によくありますし、『まおゆう魔王勇者』も『ログ・ホライズン』も読者さんが参加できる企画があります。
 
 僕としては読者さんに『参加してたら、これ、本になっちゃった』『アニメになっちゃった』みたいに思ってもらえたら嬉しい。僕は作者ではあるけど、読者さんを巻き込んだお祭りを取り仕切っている世話役みたいな気持ちですね」
 
 ひとつの完結した作品を届ける存在というより、他の作家や読者とのコミュニケーションを通じて共創していく幹事役。とはいえ、ただ賑やかしをするのではない。
 
 「作品を書くときは『現在』に対してリアルであろうとは思いますね。SF・ファンタジー的な世界ではありますが、たとえば読者の人が抱えている自意識や悩みといったことに対しては、常に誠実であろうと思っています」
 
(飯田一史・ライター)
(2014年1月27日更新/ 本紙「新文化」2014年1月23日号掲載)
飯田一史プロフィール
1982年生まれ。ライター、編集者。コンテンツビジネスに関するジャーナリスティックな活動から創作理論の講義まで、文芸とサブカルチャーを中心に活動を展開している。著書に『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』(青土社)、共著に『21世紀探偵小説』(南雲堂)などがある。
               
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