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第21回 秋川滝美氏
異色のヒット作「居酒屋ぼったくり」
 こぢんまりとした商店街にある、一軒の飲み屋。亡き父母から継いだ店を切り盛りするのは、気立ての良いふたりの姉妹。そこは、和洋中を問わず、様々な美味とお酒を提供する「居酒屋ぼったくり」。今夜も個性あふれる常連客が集い、ふらりと新しい客が訪れては、舌鼓をうつ。
 
 秋川滝美『居酒屋ぼったくり』はアルファポリスから現在2巻まで刊行、累計12万部。ファンタジーやロマンス系のネット小説書籍化を多数手がける同社のなかでは、異色のヒット作だ。 著者の秋川氏も、デビュー作『いい加減な夜食』と第2シリーズ「ありふれたチョコレート」は、女性向けの恋愛色の強い小説だった。
 
 「30年くらいああいう小説を書いていたんですけど、臆病なもので、新人賞に送って結果が出るまで半年とか1年待つのが耐えられなくて、応募したことがなかったんです。アルファポリスさんは、ウェブにアップした小説について、一定数ポイントが溜まると自分から出版申請が出せて、編集者の方が2週間程度で返事をくださるということだったので、2週間なら私でも待てるな、と(笑)」
 
 申請するとあっという間に規定のポイントに到達。デビューが決まった。
 
 「書籍化するにあたってウェブで連載している作品がないと宣伝上まずいなと思いまして。それで『ぼったくり』を書きはじめたんです」
 
 短編を1本だけあげるつもりが「連載してほしい」とリクエストを受け、書いていくうちに『いい加減な夜食』の書籍化作業そっちのけで執筆にのめりこんでいった。
 
 「それまではウェブにあげるときは長編が完成してから投稿して、コメント欄も閉じていたんです。『ぼったくり』の場合は初めて1篇ずつ書きながらアップして、コメント欄も開けていて。そうしたら読者の方から感想や『こんなお酒がありますよ』といった声をいただいて……本当に楽しくて。3日か4日おきに投稿していましたね」
 
 作中の居酒屋同様に、あたたかく賑やかな空間が、そこにはあった。そして機が熟すのを待ったうえで、編集作業に時間をかけ、『ぼったくり』は書籍化された。
 
 書籍版はウェブ版にはなかった、本文に登場する酒造会社への問合せ先や秋川氏による料理コラムが掲載され、漫画家しわすだ氏による、描線のやわらかいイラストが、食べ物と人物に彩りを添える。池波正太郎作品のように、読んでいて食欲がそそられる本だ。
 
 「池波先生の作品は全作読んでいます。それから東海林さだお先生の食に対する造詣の深さと感情表現。あのおふたりの中間がひとつの理想なのかなと」
 
 『ぼったくり』は、秋川作品の元々の読者層である女性だけでなく40代から50代の男性にも、広く支持されている。ネットの小説なんて……と思っている中高年にもぜひ手にとってもらいたい1作である。
 
(飯田一史・ライター)
(2014年11月5日更新/ 本紙「新文化」2014年10月30日号掲載)
飯田一史プロフィール
1982年生まれ。ライター、編集者。コンテンツビジネスに関するジャーナリスティックな活動から創作理論の講義まで、文芸とサブカルチャーを中心に活動を展開している。著書に『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』(青土社)、共著に『21世紀探偵小説』(南雲堂)などがある。
               
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