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第26回 深町なか氏
ネット発のイラストを小説化
 ツイッターアカウントのフォロワー数が34万人を超え、10〜20代を中心に人気のイラストレーター・深町なか氏。彼女がネットで展開するイラストシリーズを、作家の藤谷燈子氏が小説化した『ぼくらのきせき ほのぼのログ』の売行きが4刷3万2000部と好調である。
 
 イラストを小説にして書籍化するケースは珍しいが、単行本を手がけたKADOKAWA・角川ビーンズ文庫編集部は以前からボーカロイド楽曲を小説にした「ボカロ小説」を手がけており、別メディアから小説化するノウハウがあった。
 
 「あるとき営業の人間が『いま世の中で愛されるのはこういうものなんですよ!』と深町さんの画集を持ってきたんです。拝見したら、編集部みんながハマってしまいまして(笑)」(担当編集・木藤由理氏)
 
 一迅社から2014年春に刊行された画集『ほのぼのログ 大切なきみへ』は11刷まで版を重ね、現在も売れ続けている。
 
 編集部のなかでももっとも惹かれた木藤氏がオファー、深町氏も意欲を示し、企画が成立した。
 
 「『ほのぼのログ』には日常の何気ないワンシーンが描かれているんですが、『ああ、これって幸せだったんだ』と気づかせてくれるんです。ちっちゃい子を描くのがすごくかわいくて。自分にも子どもがいるので『わかる!』と。それで、イラストに描かれている人物たちの物語をもっと知りたいと思ったんです」(木藤氏)
 
 判型は画集と高さを揃え、絵も比較的大きく見せられる四六判。このサイズならネット発の小説の棚にも一般文芸の棚にも置かれるだろうという判断もあった。購買層は女性7割、男性3割。登場人物が高校生、大学生、社会人と分かれていることもあり、学生だけでなく社会人のファンも多い。
 
 「私を知ったきっかけとして『友だちがツイッターでリツイートしてきたので』とか『LINEでスタンプを見て』という声をよく聞きます。少女マンガ好きとはまた別な気がします。あんなにまぶしくないですし、刺激も強くないので(笑)」(深町氏)
 
 物語は4章立てで、それぞれ別の若い男女の恋愛模様を描いた短編集となった。キャラクターについての詳細な設定や、おおまかなストーリーラインは深町氏の中にしっかりとしたものがあり、それをもとに細かくすり合わせていった。
 
 「小説家におまかせ」ではなく、全面的にコミット。イラストのファンならにやりとしてしまうような仕掛けも施したことが、読者に満足してもらえる仕上がりにつながった。
 
 「イラストだとほのぼのばかりしているイメージが強いんですが、キャラクターは常に幸せなわけではありません。幸せに至るまでにどういう過去があって、どういう未来があるのか。それは小説でなければ描けなかったと思います。この子たちがどんな人生を辿ってきたのかという『軌跡』と、出会った『奇跡』をかけてこのタイトルになりました」
 
 ボカロ小説が数年のうちに当たり前のものとなったように、ツイッターやpixiv発のイラストから小説が生まれることも今後は増えていくのかもしれない。『ぼくらのきせき』は、その先駆にして最良のケースである。
 
(飯田一史・ライター)
(2015年6月1日更新/ 本紙「新文化」2015年5月21日号掲載)
飯田一史プロフィール
1982年生まれ。ライター、編集者。コンテンツビジネスに関するジャーナリスティックな活動から創作理論の講義まで、文芸とサブカルチャーを中心に活動を展開している。著書に『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』(青土社)、共著に『21世紀探偵小説』(南雲堂)などがある。
               
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