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第30回 縹けいか氏
同人ノベルゲーム発の「ファタモルガーナの館」
 「弟切草」に始まる、ゲームでありながら大量の文章を読み進めていく「ノベルゲーム」は、2000年代には「Fate/stay night」などの美少女ゲームでブームとなり、その後、衰退。だが10年代に入るとまた異なる文脈のホラー系や青春ものなどの有力同人ゲームが、徐々にあらたなファンを獲得しつつある。ブラウザゲームやモバイルアプリでの展開も進む(つまり、ある種の「ウェブ小説」のひとつとなっている)。
 
 魔女のモルガーナが住まう呪われた館を舞台に、歳を取らないふしぎな女中と、転生しては悲劇に巻きこまれる白い髪の少女を中心にした重厚なゴシックファンタジー「ファタモルガーナの館」もそのひとつだ。商業のノベルゲームでも1万本いけばヒットという世界で、パッケージ型とダウンロード型を合わせてそれ以上を販売。
 
 制作を手がけるノベクタクル代表の縹(はなだ)けいか氏は「大手レビューサイトやアドベンチャーゲーム系のブロガーたちが紹介して下さったおかげで、じわじわと広がっていきました」と話す。
 
 同作にはPC版およびiOSアプリがあり、PHP研究所とSBクリエイティブから2つの小説版、秋田書店から漫画版が刊行されている(小説版は縹氏が自ら執筆)。「ファンの年齢層は20代中盤から30代が多く、男女比は半々。ただ、最近入って来た女性はもう少し若く、小説やグッズを『買った』と報告してくれるのも女性が多いですね」(縹氏)。
 
 小説の刊行レーベルはラノベながら、内容は「キャラクターメインというより物語メインの一般エンタメ作品ですので、書店でも少し違う扱いをしていただければ」という。
 
 たしかに作品の雰囲気はダークで、ノベライズも典型的なラノベや「キャラ文芸」(ライト文芸)と比べても、地の文までみっちりしている。また、「ダンガンロンパ」や「逆転裁判」といったアドベンチャーゲームを愛好する縹氏の作品には、非常に凝った、どんでん返しの衝撃もある。
 
 モバイルアプリ開発を手がけた言語社の笠井翔氏いわく「『ファタモルガーナの館』は昨今のノベルゲームでは少なくなってきた、文章を読むこと自体の快感が凝縮されている、突き抜けた作品です」。
小説版の第4巻(SBクリエイティブ)
 
 ノベクタクル作品は、「男性向け」「女性向け」といったターゲティングがはっきり分かれがちな昨今のオタク系コンテンツ/ラノベ新人賞、あるいは流行りのジャンル以外は人気になりにくい「小説家になろう」に代表されるウェブ小説とは、物語も絵柄も一線を画している。同人ノベルゲームを出発点に、既成作品とは異なる固有のファン層を獲得した――作品を発表する場所・媒体の選び方と戦い方によっては「いま流行りのジャンル」以外の作品も支持される可能性があることを、自らリスクを取って示した点が、重要である。
 
 「『ファタモルガーナの館』はSteam(ゲームのダウンロード販売プラットフォーム)で英語版のリリースも予定しています。また、小説家としては今後も積極的にオリジナル作品を執筆していきたいと思っています」(縹氏)
 
(飯田一史・ライター)
(2015年10月9日更新/ 本紙「新文化」2015年10月8日号掲載)
飯田一史プロフィール
1982年生まれ。ライター、編集者。コンテンツビジネスに関するジャーナリスティックな活動から創作理論の講義まで、文芸とサブカルチャーを中心に活動を展開している。著書に『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』(青土社)、共著に『21世紀探偵小説』(南雲堂)などがある。
               
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