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第35回 「進め!!東大ブラック企業探偵団」
講談社×NewsPicks
 起業家や経営学者をはじめ、経済系の著名人や識者がニュース記事に対してコメントした情報を込みでニュースが読めるアプリ「NewsPicks」。そこで連載された小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』が今年2月、講談社から刊行された。
 
 著者は東京大学の学生・大熊将八氏。現在1万1000部、電子書籍のDLは約700と、無名の新人が書いた文芸単行本としては上々の滑り出しだ。
 
 講談社は、閲覧無料で多数のアクセスを集めて広告で収益をあげる「現代ビジネス」や、有料会員制で収益化をはかる「クーリエ・ジャポン」を中心に、デジタルメディアのマネタイズにも積極的。だが、なぜ外部のサービスと組むことにしたのか。担当編集者の加藤晴之氏に訊いた。
 
 「私は、投資家で京都大学客員准教授の瀧本哲史さんと、デビュー作『僕は君たちに武器を配りたい』を担当して以来おつき合いをしています。その瀧本さんが、四半期ごとの決算報告など公開情報を分析して、実在の上場企業の実態に迫る『瀧本ゼミ』というインカレサークルで、東大や京大や慶応などの学生を指導していたんです」
 
 企業分析をする際には、メディアや一般の人を相手にしているPRではなく、シビアな情報開示を求める投資家を相手にしているIRを窓口にするべきだ、という瀧本氏の持論を興味深く思っていた加藤氏が書籍化を打診したところ「学生に書かせた方がおもしろい」という話になり、手を挙げたのが大熊氏だった。当時、彼がNewsPicksを運営するユーザベースでインターンをしていたこともあり、連載がスタートした。
 
 「今回なぜNewsPicksで連載したかというと、掲載した原稿に対して、ピッカーとよばれる読者、そしてプロピッカーである識者たちが匿名ではなく自分の名前で責任を持ってコメントしてくれる、双方向性のあるメディアだったからです」
 
 学生である大熊氏の企業分析に対して専門家が事実誤認を指摘したり、愛のあるアドバイスをすることで、分析がより豊かになり新たな情報が集積される。書籍版はウェブ版に寄せられた多数のコメントを元に全面的に改稿されたものである。結果として、商業ジャーナリズムの流儀とは一線を画す、良い意味でのアマチュアリズムとプロの目線の両方が織り込まれた、ユニークな1冊になった。
 
 「連載はNewsPicksでしたが、刊行前後には現代ビジネスにパブリシティ記事を掲載したところ大反響があって、Amazon総合ランキングでもひと桁にランクインしました」
 
 つまり一口にデジタル/ウェブメディアといっても、制作するコンテンツやその目的によって付き合い方を柔軟に変えていくという考えのようだ。
 
 「ネットは変化のスピードが速い。NewsPicksもこれを連載していたころと今では、一見同じように見えても、どんどん進化して違う媒体になっている。同じ媒体で前例通りのルーチンで回していればいい時代ではない。書籍コンテンツを制作する側も、デジタルメディアのすさまじい変化のスピードについていかなければいけないと思う」
 
(飯田一史・ライター)
(2016年5月30日更新/ 本紙「新文化」2016年5月26日号掲載)
飯田一史プロフィール
1982年生まれ。文芸とサブカルチャーを中心に活動するライター/編集者。著書に『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)、共著に『ビジュアル・コミュニケーション 動画時代の文化批評』『ポストヒューマニティーズ 伊藤計劃以後のSF』などがある。
               
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