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第1回
YA世代の読書の実際を探る、注目すべきは中学生市場
 本連載では、いわゆるヤングアダルト世代(13〜19歳)が、実際にどんな本を読んでいるのかについて論じていく。第1回は、その前提となる中高生の読書環境について整理してみたい。
 
 小中高校生の平均読書冊数、不読率(1冊も本を読まない人の割合)は、学校読書調査では90年代後半に史上最悪となるも2000年代にV字回復を遂げ、2010年代には中学生の平均読書冊数は微増、高校生は横ばいだった。19年5月に実施された第65回学校読書調査によれば、中学生の5月1カ月の平均読書冊数は4・7冊、高校生は1・4冊。不読率は中学生12.5%、高校生55.3%。
 
 高校生になると、なぜ読書冊数が中学生の3分の1になってしまうのか。一般的には、高校に入ると興味や関心の対象が拡散し行動範囲も広がるため、読書時間が減るのだと説明されている。
 
 しかし、おそらくそれだけではない。文科省が策定した学習指導要領や2018年策定の第四次「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」を読むかぎり、小中と比べて、高校の読書推進活動に対する記述は手薄に見える。
 
 なぜ高校生に対しては、国の姿勢がトーンダウンするのだろうか。読書推進政策の焦点のひとつは、中学卒業時の15歳の子どもたちが受ける、PISA(OECD加盟国を対象とした学習到達度調査)の「読解力」スコアと参加国内の順位の上昇にある。
 
 つまり逆に言えば、PISAを受験済みの高校生以上の読書冊数は、国際比較されてマスコミなどから叩かれる懸念がない。それゆえ小中までと比べると、国レベルでは力が入っていないのではないか、というのが著者の推察である。
 
 少子化が進むなかでも児童書市場が底堅いのは、読書推進政策の影響もあるが、前述のように、この政策の影響が中学生に対してもあるからだ。だがこのことへの認識が、出版業界ではあまり共有されていないように思われる。
 
 その例が、文庫のライトノベル(ラノベ)市場である。この市場は2012年が統計上のピークで284億円、19年には143億円と半減した(出版科学研究所調べ)。ここ10年で、ラノベは「小説家になろう」発の単行本ラノベ、一般文芸寄りの「ライト文芸」市場という「大人向け」を開拓した。本丸の文庫ラノベレーベルでも大人が主人公の作品を刊行するようになり、「中高生向け」という建前を取り払った。
 
 その結果起きたのは、本来ターゲットだったはずの中高生の急速な客離れであり、市場の半減である。しかし、統計上は中学生の読書量は増え、高校生は横ばいなのだから、中高生(とくに中学生)の方を向いた出版を続けていれば、ここまでの縮小は避けられたであろうことは、現在の児童書市場の活況を見ても疑いの余地はない。
 
 中学生市場は数字から見ても重要で、注目に値するのである。また、中高生に読まれるラノベやライト文芸は、まったくなくなったわけではない。今後、連載ではそれらも含めて、この年代の心を捉える本を取り上げていくつもりだ。
 
(2021年7月1日更新  / 本紙「新文化」2021年1月28日号掲載)
飯田一史プロフィール
ライター。 文芸とサブカルチャーを中心に取材・執筆を手がける。著書に『いま、子どもの本が売れる理由』(筑摩書房)、『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)などがある。
               
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