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第3回
中高生が支持する作家・住野よる、作品の特徴と理由を探る
 2010年代後半以降、中高生にもっとも支持されている作家は、住野よるである。学校読書調査や「『朝の読書』(学校)で読まれた本」を見ると、16年には『君の膵臓をたべたい』(通称「キミスイ」、15年6月発売)がランクインし、17年7月に実写映画が公開、18年9月にはアニメ映画が公開され、それ以降も人気は続いている。
 
 最新の19年度調査分(20年はコロナ禍で調査中止)でも、「キミスイ」のみならず、住野作品で映像化されていない『また、同じ夢を見ていた』、『か「」く「」し「」ご「」と「』、『夜のばけもの』がランキングの上位にある。
 
 この年代においては、作品でなく作家が人気になるケースは珍しい。住野のほかは山田悠介、有川浩、西尾維新ぐらいで、ここ5年ほどは住野が頭ひとつ抜け出ている。
 
 住野は「キミスイ」の印象から、「エモい(強く感情に訴えかける)青春もの」の作家のイメージが強い。だがそれだけではない。10代に人気の理由は、それに加えて「自意識」の問題を扱い、自分の認識(自分から見えている世界)と他人の認識(他人から見えている世界)に差があることから生まれる悩みや軋轢、ギャップを扱っている点にあると思われる。
 
 いずれの作品でも、主人公は「自分が周囲の人間と違って集団に染まらず(染まれず)、一歩引いた視点から俯瞰できている」と思っている。だが、その「自分だけは違う」という感覚は、思春期にありがちな驕りにすぎない(こういう主人公像が10代にうけるのは、太宰治の『人間失格』が、今も中高生の読書感想文の定番になっているのと同じである)。
 
 主人公が好意を抱く相手には、主人公には見えていない部分がある。だが、それに気付かずに主人公は自分の思い込みを相手に押しつけ、挙句失敗する。しかし最終的には、いくつかの事件と直接の衝突を通じて相手の視点とのズレは矯正され、主人公も相対する側も、互いに視野狭窄だったことを実感。主人公は、他者と本気で対話することを通じて、自らの過ちに気づき悔やむ。
 
 実際には今の10代が、そこまで激情に溢れた友人・恋愛関係のなかに生きているわけではないだろう。むしろ、感情を剥き出しにしてぶつけ合うのではなく、物語の開始時点の主人公のように、相手の気持ちに過度に踏み込まないように努めるケースの方が多いはずだ。
 
 だが住野作品はそんな読者に対して、「人間関係で相手に踏み込めないことを、『あえて踏み込まないんだ』とかカッコつけて、 なんでもわかった風にしてるんじゃねえぞ!」と突きつけてくる。
 
 そして、登場人物たちが本心や真意を吐き出した先には、カタルシスがある。入り口では10代の自意識、人間関係への距離感などをリアルに描きながら、ラストでは現実にはきわめてまれな劇的な感情の吐露を描き、ある種の理想化された青春に辿り着く。それこそが、住野作品が中高生に深く刺さり続ける理由だろう。
 
(2021年7月1日更新  / 本紙「新文化」2021年3月25日号掲載)
飯田一史プロフィール
ライター。 文芸とサブカルチャーを中心に取材・執筆を手がける。著書に『いま、子どもの本が売れる理由』(筑摩書房)、『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)などがある。
               
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