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第8回
TikTokからバズる本が続出/「新しさ」の裏側に「保守性」も
 2020年から短尺の動画共有サービス、TikTok上で、「けんご 小説紹介」(@kengo_book)などが紹介したことをきっかけとする本のヒットが相次ぎ、その支持層の中心は10代だと、たびたび報じられている。
 
 代表的なものは汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)や、宇山佳佑『桜のような僕の恋人』(集英社文庫)。また2021年夏には、筒井康隆『残像に口紅を』(中公文庫)のような実験小説までが売れたことで話題になった。
 
 これらは「TikTokの影響で突然売れた」といった書き方をされることが多い。もちろんそれまで動きが止まっていたところに突然売れたのは間違いないし、TikTokを通じて、これまで本をあまり読んでこなかった層に届いたという現象は確かに目新しい。
 
 しかし、無名の作家や作品、あるいは発売したての新刊や新奇なジャンルの本が、バズって重版につながった例は――21年春以降、インフルエンサーと版元や書店、取次会社が組んで積極的に仕掛けられてはいるが−−割合的にはまだまだ少ない。
 
 今のところ、けんごが取り上げて跳ねる作品・作家は、すでに過去に話題になったか、受賞歴がある、または映像化された作品が大半だ。
 
 国内の出版業界・読書系メディアは、慣習的に新刊を中心に取り扱う。一方、TikTokではそういう慣習がないこともあってか、発売から最低でも半年以上たってから評価が定まった本が、さらに(あるいは再び)火が付くことが多い。
 
 たとえば汐見や宇山の作品は、2018〜19年の学校読書調査において、中高生女子の読んだ本ランキングに入っている(汐見作品は『あの花が〜』とは別の『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』だが)。つまり両者はともに、TikTokで話題になる以前から、10代の支持を得ていた書き手なのだ。
 
 また、『残像に口紅を』は、1990年代前半に「週刊少年ジャンプ」に連載された冨樫義博「幽☆遊☆白書」(集英社)の元ネタとして、文芸読者以外にも知られていた。さらに2017年、お笑い芸人のカズレーザーが、テレビ朝日系「アメトーーク!」で紹介したときにも売れている。
 
 動画の主な視聴者であり、自由に使えるお金が少ない若年層は、ハズレを引きたくないという気持ちが強い。そのため、動画のバズとそれに対するコメントなど、受け手の反応を見て「これなら間違いない」と確認してから本を買っていると思われる。
 
 けんごがよく取り上げるライト文芸、それもケータイ小説の流れを汲む若年層向けの作品は、一般にあまり書評が出ないジャンルである。そういう意味で、彼のようにそれらを積極的に取り上げる紹介者の存在は、比較的新しいといえる。
 
 ただ個人的には、TikTok発で本が売れることの「新しさ」が喧伝される裏にある、紹介者と受け手の少なからぬ「保守性」にも目を向ける方が、この現象の実態を正確につかめるように思う。
 
(2021年9月16日更新  / 本紙「新文化」2021年9月2日号掲載)
飯田一史プロフィール
ライター。 文芸とサブカルチャーを中心に取材・執筆を手がける。著書に『いま、子どもの本が売れる理由』(筑摩書房)、『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)などがある。
               
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