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第9回
TikTokでバズる本とは?/ユニークで意外なその条件
 前回のこの欄で、TikTok発で10代(とくに女子)にバズった本は、すでに過去に一度以上話題になったタイトルの方が多いと書いた。とはいえ、過去に売れたものならなんでもいいというわけではなく、そこからさらに傾向は絞られる。
 
 動画に対する反響は、「作品の特徴×紹介」の妙という掛け算で決まると考えられるが、TikTok上での本紹介の第一人者「けんご 小説紹介」(@kengo_book)の動画の再生回数の多寡から、TikTokユーザーが好む傾向を抽出し、整理してみよう(ただし、あくまで傾向であって、なかには例外もあるが)。
 
 まず、おもに大人の方を向いて書かれているような印象を与える作品は、反応が鈍い。実はここで、ほとんどの一般文芸作品が脱落する。たとえば東野圭吾でさえ難しい。反対に伸びやすいのは、10代向けに書かれた、10代が主人公の作品である。
 
 次に、ラノベ、ファンタジー、デスゲーム、社会派、本格ミステリーなども、文芸色が強い作品の紹介動画は伸びない。男子だけが好きそうなもの、キャラ小説然としたもの、オタクくさいもの、バトルや頭を使うものなど、難しそうだったり、読むのが面倒くさそうなものはだめだ。
 
 いわゆる本好き向けの作品や、そういった雰囲気をもつ紹介の仕方には、TikTokユーザーは反応しない。有川浩、森見登美彦、辻村深月ですら難しい。
 
 さらに興味深いことに、映画化やアニメ化、○○賞受賞、芸能人が書いた、といったメディアの動きや権威による評価にも、TikTokのユーザーは食いつかない。彼らにとっては、あくまで自分がTikTokを観ているときの気分に合致するかどうか、自分たちと同じ目線で、刺さる感想が語られているかが重要なようだ。
 
 たとえばhonto発表の「二十歳(はたち)が一番読んだ小説ランキング」で、2019年に1位を獲得したのは、乃木坂46・高山一実の『トラペジウム』(KADOKAWA)だったが、その紹介動画は意外なほど伸びていない。
 
 これらのNG条件を回避したうえで、恋愛、推し、サイコパス・壊れた倫理・少年犯罪、人が死ぬ、余命○年・難病もの、エグい・怖い・トラウマ、いじめ・復讐、オチが気になるあらすじ、誰かに語りたくなるオチ、小説自体に仕掛けがある、どんでん返し、実話ベース・ノンフィクション、泣ける・切ない−−これらのうち、いくつかが複合的に組み合わされた作品が、支持されやすいのだ(ただしウリが「泣ける」だけや「驚愕の結末」だけでは、さほど伸びない)。
 
 こうしたユニークともいえる特性をクリアして、けんごの動画で10万回以上再生されたタイトルは、乙一『夏と花火と私の死体』(集英社文庫)、乙野四方字『僕が愛したすべての君へ』(ハヤカワ文庫JA)、綾崎隼『死にたがりの君に贈る物語』(ポプラ社)、宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社)、豊田正義『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』(新潮文庫)、小坂流加『余命10年』(文芸社文庫NEO)、櫻いいよ『交換ウソ日記』(スターツ出版文庫)などである。
 
(2021年10月13日更新  / 本紙「新文化」2021年9月30日号掲載)
飯田一史プロフィール
ライター。 文芸とサブカルチャーを中心に取材・執筆を手がける。著書に『いま、子どもの本が売れる理由』(筑摩書房)、『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)などがある。
               
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