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第18回
中高生が読む小説以外の本、共通点は「陰キャの自己慰撫」
 学校読書調査の結果わかった「中高生がよく読んでいる本」のうち、小説以外のものを見ると、ある共通点があることに気づく。ひとことで言えば、「陰キャの自己慰撫」(陰キャ=後ろ向きな人)だ。それをひとつずつ見ていこう。
 
 まずメディアからの影響。男子が読んでいる『ハローキティのニーチェ=x(朝日新聞出版)、『ポケット版「のび太」という生き方』(パンローリング)、『ぼのぼの名言集』(竹書房)はマンガなどのキャラクターもの、女子が読んでいる『死にたいけどトッポッキは食べたい』(光文社)、『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)は韓国エッセイだが、どちらもBTSのメンバーが読んでいたことで知られる。さらに『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)も、メディアでよく取り上げられた1冊だ。
 
 しかし、ただ「メディアでの露出が多く、親しみがある」というだけにはとどまらない。「生き方」に関して書かれた平易なエッセイであることが共通点だ。政治経済や社会を論じるのではなく、自分に引きつけて読めるもの、それも取材に基づくノンフィクションや論評ではなく、堅苦しくない読み物である。
 
 自意識過剰な年頃だから、自分を見つめるうえで自己啓発本に手を出してもおかしくないのでは、と思うかもしれない。しかし自己啓発≠ニ呼べるような内容かというと、それも微妙なところだ。
 
 実はここまで挙げてきた本が発するメッセージは、どれも似ている。それは「自己肯定感が低かったり一見するとダメな自分であっても、他人と比較して落ち込まず、自分らしく生きよう」というものである。
 
 決して「明るく楽しく元気に」ではないし、「競争に勝ち抜け」とか「才能を目覚めさせよう」というものでもない。高みを目指さないし、「○○しないと脱落する」などと読者を脅すようなホラー・ストーリーでもない。また、何か具体的なスキルアップを説くわけでもない。したがってこれらの内容は、「啓発」とは呼びがたい。
 
 では何かというと、多様性は肯定するものの「みんな違ってみんないい」的なきれいごとではなく、「自信が持てないぼちぼちな自分でも、なんとか認めたい」と慰撫≠キるような内容なのである。
 
 弱さを吐き出し、自らの何もなさを受け入れる。目に見える能力のすごさや外見の良さよりも(第一そんなものは持ち合わせていない)、思いやりややさしさが大事。偏差値の高い学校に行って勉強するよりも(そもそもそんなところには行けないが)、日常生活で多少のトラブルやケンカが起きても、何とかしのいでそれぞれが好きなことをやれるのがいい……というものだ。
 
(2022年7月26日更新  / 本紙「新文化」2022年6月30日号掲載)
飯田一史プロフィール
ライター。 文芸とサブカルチャーを中心に取材・執筆を手がける。著書に『いま、子どもの本が売れる理由』(筑摩書房)、『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)などがある。
               
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