第2回 定着した〝サバイバルもの〟人気、現実との類似と乖離がポイント

 高見広春『バトル・ロワイアル』(太田出版→幻冬舎)が1999年に刊行されると、「中学生がクラスメイト同士、殺し合う」という設定が物議を醸した。『バトロワ』型の「デスゲーム」や、極限状況での生き残りをかけたサバイバルものは、騒がれなくなっただけで今や、小学校高学年~中高生には人気ジャンルとして定着している。
 「日本全国の佐藤姓の人間が、王が放った刺客から逃れ、生死を懸けて最後のひとりになるまで鬼ごっこを続ける」という『リアル鬼ごっこ』(2010年、文芸社↓幻冬舎)でデビューした山田悠介のデスゲーム/サバイバル小説や、「謎の『王様』から届くメールに書かれた命令に従わなければ死ぬ」という内容の、金沢伸明『王様ゲーム』(09年~、双葉社)、さらに屋敷に閉じ込められた主人公たちが鬼から逃れて脱出を目指すゲーム『青鬼』の小説版(13年からPHP研究所より複数種類刊行)などは、10年代以降も学校読書調査や朝読の中高生の「読んだ本ランキング」の常連だ。
 ライトノベルでも、川原礫『ソードアート・オンライン』(電撃文庫)の第1巻や、衣笠彰梧『ようこそ実力至上主義の教室へ』(MF文庫J)は、デスゲーム/サバイバルものに近い感覚の作品で、中高生に人気である。この動向が下の年齢にも降りて、「人が死なない」など、描写を和らげた、集英社みらい文庫の針とら『絶望鬼ごっこ』(15年~)などが、小学校4~6年生向けの児童文庫でも人気を博している。
 なぜこれらは人気なのか。ひとつは、設定と話の筋のシンプルさだ。「参加者が徐々に脱落していく」流れを追えばいいだけだから、小説を読み慣れていない読者でも入っていきやすい。
 『バトル・ロワイアル』の影響は海外にもおよび、「プレイヤー同士が最後のひとりになるまで戦う」バトルロイヤルゲームの成立に寄与した。
 近年、こうしたジャンルの『フォートナイト』や『Apex』『PUBG』『荒野行動』などは、高見の小説を知らない日本の小中高校生にも人気が高く、「ああいうゲームみたいな設定ね」と、ますます受容しやすくなっていると思われる。
 また、児童・生徒同士が競争や蹴落としを強いられる理不尽さは、彼ら自身が実体験している学校生活や受験制度の似姿でもある。
 現実生活ではその窮屈さを吐露できずとも、フィクションのなかでは、死や脱落をかけた極限状態で、登場人物たちは普段言えないことを言い、できなかったことを実行する。さらに仲間の死に際して、悲しみや怒りなど強い感情も表出する。
 登場人物と自分の置かれた環境に類似性があり、かつ現実ではできない行動、得られないカタルシスが描かれることも、このジャンルの人気の理由だろう。
(2021年7月1日更新  / 本紙「新文化」2021年3月4日号掲載)