第9回 うろんなはなし

 あの、やけに軽いプラスチックケースめ。店頭に陳列している、CDのダミーだ。呼び名からして悪役っぽく、中身が胡乱なところが嫌である。レジで受け取ったそれを見本に、ストックから商品を探すのだが、実際は倍の厚みがあったり、二回りも大きかったりするので、私自身が胡乱な店員になってしまう。

特典はポストカードか、ポスターか。そんなときの「クリアファイルがもらえるって聞いたんですけど」というお客様の一声よ。情報提供に感謝。CDなどの音楽ソフトは、買う人のほうが詳しい場合が圧倒的に多いのだ。

しかし書籍となると、3年前の本を新刊だと言い張ったり、タイトルが途方もなく違っていたり、購入時に「イベントの予約をしているか」と聞けば、「あるのか」と驚かれることもある。このご時世に、情報の行き渡っていなさっぷりがすごい。2000円近い本を買うくらいの熱意と、その本に関する情報を集める意欲のバランスがおかしくないか。

「じゃあ一応もらっておきます」。そんな胡乱な状態で、最後の1枚だったチケットを手に入れて欲しくはないのだが、聞いた手前、引っ込められない。

あれ、何の話だったっけ。エッセイの内容まで胡乱になってしまった。

 (新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

( 本紙「新文化」2019年9月12日号掲載)