第26回 喉元過ぎても考える

 今年の5月5日は、気持ちのいい晴天だった。昼飯用の総菜を求めに商店街へ行くと、「和菓子屋に50人くらい行列しているらしいよ」と噂する声が耳に入り、ギョッとした。
 近所の人は、毎年その老舗で柏餅を買うのが恒例なのだろう。だが、緊急事態宣言が発令されている最中に、行列するほど必要なものだろうか。柏餅を食べるのは、子どもの健やかな成長を願うためである。まさか柏餅を食べなければ、成長が止まるわけではあるまい。
 大人が並ぶのは子や孫思いで素晴らしいことのようにも思えるが、柏餅とともにウイルスも持ち帰っては元も子もない。私には何が正解かわからない。
 その数日後には、都心の大型書店が営業を再開した。「本が好き・書店が好き」という気持ちで情報を拡散し、待ってましたとばかりに駆け付けることは、何やら美しい行為のようにも見える。だが、喜ぶのはまだ早いというか、いや、ありがたいことだが、事情を想像すると、そんな単純な話ではないだろう。出勤する書店員の心境だって様々なのでは……などと、自宅待機の身で思い悩む。
書店のレジに行列ができることが、これほど素直に喜べないことはない。私には何が正解かわからない。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2020年5月28日号掲載)