第52回 精神世界を移動させたい

 寝入りばな、知人からLINEで写真が送られてきた。
 【こちらには、精神世界が移動してきます。】と印字されたコピー用紙を、4枚も貼った柱が写っていて、狂気を感じる。
 アカウントを乗っ取られたのかと警戒したが、よく見ると、その奥には空っぽになった書棚と、作業中と思しきブックトラックがあった。なるほど。そういえば、私が担当する棚も、棚替えの真っ最中である。
 文庫の棚で、同じ著者の単行本と新刊を併売したいのだが、異なる大きさの本を同じ棚に入れるには、本をすべて取り出し、棚板を外して高さを調整しなければならない。そもそも隙間などなかったところに、新たな本を入れ込むのだから、厳しい取捨選択も迫られる。
 何がベストなのかわからないから、替えてもすぐ元に戻す可能性もある。完成図は、ぼんやりと私の精神世界に浮かんでいるような状態なので、暗中模索で、先が見えないのだった。
 それこそ、件の貼り紙は私の棚にこそ貼るべきである。
 知人に聞いたところ、ツイッターで見かけて面白かったので、本屋の知り合いに送っただけ、とのこと。おかけでこっちは、夢の中でも精神世界にさ迷い込むはめになったのだが……。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2021年7月1日号掲載)