第61回 謎の色紙

 旅のついでに足をのばし、山と田んぼに囲まれたショッピングセンターを訪れた。平屋の古い建物には、スーパーや100円ショップが並んでいる。目的の書店は、広いスペースにあらゆるジャンルが満遍なく置かれている印象だ。エロ本も堂々と陳列され、よくある郊外の個人書店といった雰囲気である。
 しかし文芸書の棚を見ると、きちんと新刊が並び、話題の本も押さえている。一冊手に取ると、細長い色紙が挟まっていた。別の本には、違う色の紙が挟んである。そこには一定のルールがあるように思えた。
 後日オーナーと会う機会があり、色紙のことを訊ねると、にやりと笑って教えてくれた。
 自分が不在の時でも、経験の浅いスタッフが迷わず納品できるように、目印として色紙を挟んでいるそうだ。棚から外しても良い本かどうかが、一目でわかる。
 そのひと手間は、私が初めて働いた書店を思い出させた。当時はすべての本にスリップが入っていたので、文芸書担当の先輩は、そこに必ず入荷日を書いてから棚に入れていた。新人の私が、決められた時間内に仕事ができるようにするためだ。
 先輩なら、そんなことをせずとも納品できたはず、ということには、だいぶ後になって気付いた。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2021年11月11日号掲載)