第69回 店をたたむということ

 シフトの都合で、開店準備はできても、閉店作業の経験がほとんどないままだった。ピンチヒッターとして遅番に入ると「朝の仕事の逆をすればいいんだよ」と言われるが、まとめたゴミをどこへ持っていけばいいのかもわからず右往左往する私は、ただの足手まといだったろう。
 それと同じく、新店の準備をしたことはあるが、店を畳んだ経験がない私は、営業最終日から完全撤退日までに残された10日間が、はたして長いのか短いのかもわからなかった。
 まずは返品了解を得るために、手当たり次第、出版社に電話をかける。コロナの影響でつながらない時間が多かったり、会社自体がなくなっていたり、想像以上に骨の折れる作業だった。それらがようやく片付いたと思ったら、店内の不要品を捨てる。捨てても捨ててもまだ出てくる。
 最も手間取ったのは、レジ下だった。伝票の控えや文房具、レシートロールやレジ袋などを取り除くと、それらを取り出しやすく収納するための、段ボールと透明のテープで拵えた間仕切りがあったのだ。書店の仕事とは本を並べて売るだけではない。みんなが仕事をしやすくするために誰かがしてくれた仕事を、私は閉店作業でようやく知ったのである。

(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)

(本紙「新文化」2022年3月17日号掲載)