第1回 日本の誤解・疑問に応える

 縦スクロール・フルカラーコミックの 「ウェブトゥーン」が、日本でも知られるようになった。韓国カカオの日本法人・カカオピッコマが運営するピッコマは、日本のマンガアプリにおいてシェアNo.1だが、同サービスでは売上げの約半分は日本マンガ、もう半分はウェブトゥーンだという。
 しかし日本では、韓国の漫画(マンファ)およびウェブトゥーンの歴史やビジネスについて、ほとんど知られていないのが現状である。最もよくある誤解は、「最近になって突然ウェブトゥーンが登場し、結果、韓国の出版漫画は滅びた」、「海外でも売れているのは国策のおかげ」、「出版漫画時代には、韓国では日本マンガの海賊版ばかり読まれていた」などというものだ(注:本連載では、韓国作品は「漫画」、日本作品は「マンガ」として表記を分ける)。
 だが、インターネット上に配信・販売される漫画は、韓国では90年代からあるし、「ウェブトゥーン」という言葉は、実は2000年代初頭から存在する。さらに日本の小学生にも人気の学習漫画「サバイバル」シリーズの単行本は、韓国でも人気だ。それでどうして「出版漫画は滅びた」などと言えるのか。
 「韓国ウェブトゥーンは、なぜ急に、日本でそんなに売れ始めたのか?」と疑問をもつ人は、本紙の読者にも少なくないかもしれない。実は韓国漫画が日本に初めて紹介されたのは1975年、金星煥(キム・ソンファン)『コバウおじさん』(拓殖書房)だった。つまり、韓国漫画の邦訳・流通には、半世紀弱もの歴史がある。もっとも20世紀の間は、ほとんどがヒットしなかった。ゆえに「なぜかつては売れなかったのか?」という理由も併せて考察してみないと、いまウェブトゥーンが売れる理由の説明も、不十分なものになるだろう。
 より正確を期すと、2000年代にはパク・ソヒ『らぶきょん LOVE in 景福宮』(新書館)が日本でもヒットしていたし、原作:尹仁完(ユン・イナン)、作画:梁慶一(ヤン・ギョンイル)『新暗行御史』(小学館)や、原作:林達永(イム・ダリョン)、作画:朴晟佑(パク・ソンウ)『黒神』(スクウェア・エニックス)など、韓国人作家が日本のマンガ雑誌に連載し、アニメ化された人気作もあった。にもかかわらず、韓国漫画の台頭は日本で「突然」と捉えられている。それはいったいなぜなのか?
 この連載の主な狙いは、韓国漫画/ウェブトゥーンの歴史の流れを紹介するとともに、日本でよくいわれているような誤解を解き、併せて日本人がしばしば抱く疑問にも応えていこうというものだ。
 さらに、日本で当たり前とされている出版流通や制作体制、商慣習は、韓国では必ずしも当然のことではなく、その逆もまた然りである。
 互いを合せ鏡のように照らし合わせることで、改めて日本のマンガ、出版業界について、新たな気づきや示唆を得る--そのような内容にしていければと考えている。
(本紙「新文化」2023年10月4日号掲載)