第3回 まちには本屋が必要だ

 かつてまちに一軒だけあった本屋を閉じ、無書店地域の一つをつくった時から、いや、それ以前からそう思い続けている。
 業界の隅に身を置く者として、無条件に「本屋は素晴らしいのだ」というつもりはないが、本と読書を通じて得ることのできる豊かさを伝えていきたいと考えている。豊かに生きる、豊かな心を得る、という美辞麗句が喧伝される現在、真の豊かさとはどんなものだろうかと思うことがある。
 コロナ禍で学校教育のデジタル化は大きく進んだ。一人に1台のタブレットを配布し、学習に活用していくというGIGAスクール構想である。小学校を卒業し、中学生、高校生と進むにつれ、皆がネットを通じて広い世界との繋がりをもつ。
 もしも、幼少期から小学期において本と触れ合わず、本の面白さと楽しさに、そして豊かさに触れる経験をしなければ、本の存在を拠り所とすることがないまま、デジタルの面白さと便利しか知らない大人になってしまうのではないだろうか。
 「本の存在を拠り所」とする人を増やすことに、どのように本屋が関わりをもてるか。そこにこそ、「まちには本屋が必要ですか?」という問いに対する一つの答えがあると感じている。
 現在、本屋がそれぞれの地域における本と読者のコミュニケーションを双方向でサポートする機能をもつことで、「本の存在を拠り所」とする人を増やす場として活用してもらえないかと考え、その実現に向けて動き出し始めた。
(本紙「新文化」2021年2月11日号掲載)

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