第23回(最終回) イメージでなく地に足付けたビジネスを

韓国漫画・ウェブトゥーンの歴史を追ってきた本連載も現在に追いつき、今回で最終回となる。

連載を開始した2023年の秋頃は、一部で「スマホに最適化された表現であるウェブトゥーンが、世界市場を席巻する」と語られていた。それが今や、「ウェブトゥーン事業者は北米と日本以外からは撤退が相次ぎ、停滞している」という悲観論が広がっている。わずか2年足らずで、評価が180度変わってしまった。

しかし韓国の漫画産業では、数年で競争環境が激変するのも、楽観論と悲観論が簡単に入れ替わるのも、「いつものこと」なのである。楽観論の根拠が薄弱だったのと同様に、「もう終わりだ」といった過度な悲観論も、その根拠は薄い。また何年か経てば、報道のトーンは変わっていることだろう。

たとえばNAVERは、目下20本以上のアニメ化企画を進行させているが、仮にその試行錯誤のなかで大ヒットが生まれれば、日本のメディア、マンガ業界も再び〝手のひら返し〟をするかもしれない。 だが、そもそも移り気な報道に右往左往すべきではないのである。必要なのは、冷静に正しく産業構造を理解し、手を打っていくことだ。

ウェブトゥーンは韓日で読者に支持され、市場が巨大化した。そのことが「韓国と日本では、コミック産業は大きく異なる」という事実を見えにくくさせ、両国に多数の誤解を生んでしまった。

それだけではない。ウェブトゥーンの課金が両国で爆発的に広がったことが、「中国、欧米、東南アジアなどではコミック流通・読者の好む読み方・お金の出し方がそれぞれ違う」という大前提を無視し、「ウェブトゥーンが世界を制する」かのような楽観論を生む一因になった。

この連載の目的は、韓国に対する日本側の誤解を解きほぐすことにあったが、国際的な無理解や誤解、思い込みは、韓日以外の国の間でもいくらでもある。そのしっぺ返しとして、韓国のウェブトゥーン事業者の国際展開における足踏みがあり、悲観論への急激な傾斜がある。

「日本でうまくいったのだから(あるいは、韓国ではこのように変化・発達したのだから)、ほかの国も当然そうなるだろう」--韓国のウェブトゥーン事業者に、数年前まで蔓延していたこのような思い込み、自国と他国の安易な同一視は、日本のコミック事業者の海外進出においても、しばしば見られるものだ。

だが、実際には商習慣、課金モデルなどビジネスに関係することから、絵柄やキャラクター設定・ストーリーの好みといった作品の内容、本の判型・紙質・装丁に至るまで、国や地域によってそれぞれの「常識」は大きく異なる。

ゆえに当然だが、海外展開はそう簡単にうまくはいかない。1975年の『コバウおじさん』に始まる韓国漫画の日本進出は、四半世紀以上、商業的には「失敗」に終わってきた。ようやくヒットが出るようになったのは、21世紀に入ってからだ。その背景に何があったのかは、本連載で述べてきた通りである。

世界市場を見据える韓国と日本のコミック事業者は、今こそこうした歴史を参照し、国によるコミック産業の違いをきちんと認識すべきだろう。

思い込みに基づく楽観論のメッキは、現実に直面することにより簡単に剥がされる。ふわふわとしたイメージに拠るのではなく、地に足を付けた知識やデータに基づく漫画・ウェブトゥーンビジネスの時代--それはすでに始まっている。

(本紙「新文化」2025年8月7日号掲載)

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