今年度の最低賃金の引き上げ目安が、過去最大の6%増の63円に決まったとの報道があった。長引く物価高を反映したかたちで、最低賃金の全国平均は過去最高の1118円と初めて1100円台に突入する見通しとなった。2024年の最低賃金は、全国平均で1055円と、過去最大の引き上げ幅となる51円増額されたことを考慮すると、この2年間で最低賃金が114円引上げられたことになる。
働き手としては少しでも賃金が上がるのは喜ばしいことであるが、経営者目線で見たとき、この急激な引上げによる負担増のダメージは非常に大きく、今後書店経営を維持していけるのかとすら考えてしまう。労務費の増加を販売価格に転嫁できている業種業態はいいかもしれないが、販売価格の決定権がない小売である書店は、直接的に損益に響いてくる。これ以上どこを削り捻出するか経営努力が試されているが、もう削り出すことができないギリギリの状況での運営が続いているため、途方に暮れている。
さらに、2025年1~7月に判明した人手不足倒産のうち、「従業員退職型」は74件で、前年同期(46件)から約6割の増加となったという帝国データバンクの報道が続いた。転職が当たり前の時代となった今、有能な人材が業界を離れてしまうこともあるだろう。
いっこうに改善しない出版構造改革に売上不振、そこに過去最高の最低賃金の引き上げ。
引き上げ自体に異論はないのだが、小規模事業者の支払い能力を踏まえると、厳しさを増す未来しか見えない。
(本紙「新文化」2025年8月21日号掲載)