「We pronounce ワラ!」
「じいじ、もう一回言って!」
大袈裟なR音で得意げな父に笑い転げる甥と姪。何故か英語がネイティブの子どもたちにWaterの発音を教える父。文法も発音も変なことにハマってしまい兼森家でプチブームだ。
今年も、妹と甥と姪が日本に帰ってきた。もともと、子ども扱いができない父。なかなか交流が難しかったけど、2人とも小学生になり、去年辺りからなかなかおもしろい会話が繰り広げられるようになってきた。
「じいじ、ヨーロッパの国の名前どれだけ言えるか競争しようよ!」
甥に言われ、本気で相手する父。相手は、ヨーロッパ住み。だいぶん不利だ。(甥も知恵が回るようになってきた)なんとなくそれっぽい発音で国名を挙げる父に、すかさず完璧な発音で言い返す姪。子ども相手にムキになるが、完敗。
「じいじ、英語の時間、何を習ってたの? 腕相撲? 英語以外喋れないの?」
腕相撲では父に勝ったことがない、甥のきつい一言。大学生の時、税理士の資格を取りそこね、60歳を過ぎてから大学院に入学をし、無事資格を取った父は、最近まで勉強してきたという自負がある。悔し紛れに、
「フランス語ならわかる」
ああ、言わなきゃいいのに。日本でいう外国語の授業がフランス語の甥にあっさり負ける。本当に、口が達者になったなあ。そのうち、腕力でも勝てなくなるんだろうなあ。頑張れ、父。
年々、大きくなってゆく2人。まだまだ子どもらしいけど、あっという間だろう。そのうち、忙しくなって日本には行かないとか言い出すんだろうなあ。
母の墓参りに一緒に行き、買い物をしていたら、突然の豪雨。
「雨、今で良かったね。もっと前だったらおしんこ消えちゃうね」と甥。お新香? 確かにさっきランチで食べたけど、消えちゃうってなに? 食べたから?
「お墓参りのとき、雨降らなくてよかった。これじゃあ消えちゃうもん」
「……それさ、おしんこ、じゃなくってお線香」
恥ずかしそうな甥。まだまだかわいい。そんな甥には『まちがいまちにようこそ』(小峰書店、斉藤倫・うきまる作/及川賢治絵)を読んであげよう。ぼくが新しく引っ越してきたところはまちがいまち。いちめんの「あな」ばたけに、やねのうえにはりっぱな「えんぴつ」。隅々までまちがいだらけの楽しい絵本。
英語もフランス語も大事だけれど、日本語もね。大きくなっても帰っていらっしゃい!
(本紙「新文化」2025年7月31日号掲載)