第6回  会いたくなる人

 出勤前、土日祝日は必ず二重橋前のローソンに寄る。彼がいるからだ。商品は必ず両手で受け取り「ポイントカードはございますか? お支払いは? はい、PayPayですね。はい、コードを真ん中に合わせて……(バーコードに機械をかざす)お読み取りいたします」と指さし確認しながら対応するその店員さんは、さながらホームで安全確認を行う駅員さんのようだ。
 一番好きなのは「袋にお入れいたしますか?」と指で四角を書く仕草をしてくれるところ。私もついつい「いらないです」と顔の前で大きく手を振ってしまう。レジカウンターに透明の仕切りがあるので、あの大きなジェスチャーは本当に分かりやすい。一部の隙も無く、毎回寸分たがわぬ言い回しなのだけれどロボットのようでもない。本当に丁寧で、うっとりと見惚れてしまうのだ。

 会いたい人がいるって素敵だ。「あいたい あいたい」口に出してみる。もっとずっと会いたくなってくるから不思議。『あいたい あいたい あいうえお』(KADOKAWA、聞かせ屋。けいたろう文・おくはらゆめ絵)は会いたい気持ちの賛歌で溢れた絵本。リズミカルな言葉にのびやかな絵が気持ちよい。
 私は、おくはらさんの絵がとても好きだ。いつも心を柔らかいもので満たしてくれる。ページを捲るたびに、私の心が会いたい想いで支配されてゆく。「ああ! 会いたいな」気持ちは最高潮。大急ぎで靴を履き、軽やかに外に飛び出すのだ!
 「あいたい あいたい」そう呟きながら、私はローソンにむかう。きっと他の立地では、もっと雑でも素早くお客様を捌ける店員さんの方が重宝されるのだろう。休日の閑散としたオフィス街だからこそ、彼の持ち味が発揮されるのかもしれない。
 でも、忙しい毎日の中で呼吸を忘れそうになる時、私は彼にたまらなく会いたくなるのだ。友達や知り合いが多くなくても、名前なんか知らなくても、会って言葉を交わせる顔見知りがいる。元気をくれる人がいる。そんな人が一人でもいる世の中になるといい。児童書売場ではじっくりとご相談を受けることが多いので「あなたに選んでもらった本が喜んでもらえた」とお客様が再来店してくださることも少なくない。彼を想いながら、居住まいを正す。私もそんな一人になりたい。
 先日、初めて彼の名札を見た。何となく名無しでいて欲しかったので今まで見ないようにしていたのだ。ネームプレートは金色に輝き、そこにはリーダークルーの文字が! 彼が会社でもきちんと評価されていることを知り、たまらなくうれしかったのである。
(本紙「新文化」2022年6月9日号掲載)