第5回  祖母との思い出

 私を本好きにしたのは、まぎれもなく祖母だ。祖母のことが大好きだった。祖母の好きな食べ物は私の好きな食べ物。祖母の好きな色は私の好きな色。
 カクセイイデンという言葉が好きだった。「理恵ちゃんとおばあちゃまはカクセイイデンだから、そっくりなのよ」そういわれると、私と祖母を繋ぐ、崇高な言葉に思えるのだった。私の糧でもある森山京先生の童話やスズキコージさんの絵は「おばあちゃまのお友達の娘さん」がやっている画廊で出会った。祖母が与えてくれるものは、私にとってすべて善だった。
 なんでも買ってくれたが、とりわけ、本は好きなだけ買ってくれた。大好きな祖母が買ってくれたものだから、私はよけいに好きになった。

 久しぶりに『おばあちゃんのわすれもの』(のら書店、森山京作・100%ORANGE絵)を読んで祖母を想う。大好きな森山先生が最後に残してくれた、まるで先生のすべてが詰まったような童話だ。
 こぶたのトンタはおばあちゃんと町におでかけ。たくさんお店をまわって帰ろうと思ったら、おばあちゃんの杖がない!トンタは大急ぎで杖を探しに、まわったお店にむかって走り出す。大好きなおばあちゃんのために必死なトンタは、まるで小さな私のようだ。祖母が出会わせてくれた森山先生の作品は、私の一生の財産。大げさでないのに力強く美しい言葉は、いつだって私の支えだ。
 祖母には本当にたくさんの宝物をもらった。けれど、実はひとつだけ心残りがある。それは好きだった本を尋ねたことがないことだ。祖母は、どんな本が好きだったのだろう。
 「自分の名前が嫌いなの」そういって勝手に名前の最後に子をつけていたから、私も倣って「理恵子」としていた。今思えば、終りにeのつく綴りにこだわったANNE、まるで『赤毛のアン』のようだと思うのだけれど、今となっては、確かめることもできない。
 店頭でお孫さんのために一生懸命絵本を選んでいらっしゃるお客様。「あんまり会えないのよ」とか「何が好きかわからなくて」とか、悩みながらもお孫さんに喜んでもらいたくて、その眼差しは真剣だ。そういう方を見かけると、ついついお孫さんではなくご本人の好きなものを伺ってしまう。
 大丈夫、あなたが好きなものはお孫さんにもきっと伝わる。ぜひ自分の大好きを共有してあげてほしい。そして一緒にたくさんの宝物を増やしてほしい。お節介だけれど、そう願わずにいられないのだ。
(本紙「新文化」2022年5月12日号掲載)