第19回 〝韓国は日本マンガの海賊版だらけ〟の誤解

ウェブトゥーンが流行する以前、日本ではしばしば「韓国漫画は日本のパクリや海賊版だらけ」だと語られてきた。本稿では、その点に関する誤解を解いておきたい。

韓国で外国の著作物が保護対象になったのは、1987年の著作権法改正以降である。それまで道義的にはともかく、法的には外国の著作物の保護は義務ではなかった。違法でも儲かるなら手を出す人間がいるのに、違法でないならパクリや海賊出版に及ぶ事業者が出るのは当然だ。

では、それはどのくらいの規模だったのか。1980年に韓国の新聞で日本マンガの剽窃・海賊版横行の告発記事が書かれた際、その出回り部数は200万と推定されている(ただし算出根拠は不明)。

この数字はむしろ、市場の小ささを示している。なぜなら当時日本では、「週刊少年ジャンプ」だけで〝毎週〟300万部を発行していたからだ。

また海賊版が流通していたのは一般書店ではなく、漫画房(貸本所)や駄菓子屋など限られたルートであり、ソウルなど都市部が中心だった。ゆえに「韓国の子ども・若者なら誰もが(海賊版を)夢中になって読んだ」とイメージするのは誤りである。

「日本マンガをトレースした作品が、韓国人作家の名前で流通していた」「日本のマンガ、アニメが韓国産だと偽装された」といった話もよく語られる。だが韓国でアニメが爆発的にヒットした「キャンディ・キャンディ」の単行本などには、日本人の作家名が表記されたものもあった。

そして韓国の新聞では、それらは「日本のもの」という前提でたびたび報じられており、少なくとも大人は正しく認識していた。一方、そんな知識がない子どもはわからないこともあっただろう。しかしそれは日本の子どもたちが、『ピングー』や『パウ・パトロール』などが外国で作られたものと意識していなかったのと同レベルの話である。

それではなぜ、「韓国漫画は日本マンガのパクリ、海賊版ばかりだった」という、マイナスイメージの神話や誤解が生じてしまったのか。

ひとつには、日本人に対して「日本マンガを海賊版で熱心に読んだ」と語る韓国人の多くが、漫画家などのクリエイターや漫画業界の関係者、それもソウル近郊の出身かそこで仕事をしていた人たちだったからだろう。

たとえばの話、大友克洋がメビウスからの影響を語ったからといって、1970~80年代の日本において、フランス・ベルギー発のアーティスティックなBD(バンドデシネ)が広く受け入れられていたというわけではない。一部のクリエイターの発言だけを聞いて「その世代の一般の人たちも皆そうだった」と見なすことはできない。

さらに、日本人が韓国の書店や総販に出向いて買い物したり、韓国の漫画家と交流したりする際、韓国漫画について、日本マンガとの類似点や日本からの影響にばかり目を向けたことがあったのではないか。それは、日本人が韓国文化を下に見ていたということでもあった。

確かにかつて、日本マンガのパクリや海賊版が、多々存在していたことは否定できない。だが韓国の漫画市場で、そうした行為がそこまで重要だったわけでは決してなかった。

(本紙「新文化」2025年4月3日号掲載)

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