第47回 コンコースにあふれるキラメキ

朝の東京駅は、賑やかだ。私の通勤ルートに「団体集合場所」があり、ピークのときは5組以上の修学旅行の学生たちが集まっている。これから始まる数日間に興奮しきった、顔、顔、顔。二日酔いの朝なんかは、「頭に響くからやめてー」と思うのだけれど、大抵の場合は懐かしさと眩しさでクラクラしながら通り過ぎる。歓声と拍手がコンコースに響く。挨拶や注意事項、今後の予定などを発表している。学校によって、話をするのは先生だったり、生徒会長か旅行委員の生徒だったりいろいろだけれど、弾むような声を聞いているだけで、楽しい。

ほんの数年前のこと。東京駅は静かだった。駅の中に、鳩が入り込んじゃうくらいに。通勤する人もめっきり減って、修学旅行もなくなった。2年ほど前からだろうか、少しずついろいろなことが元通りになり始めた頃、コンコースにも学生の団体が戻ってきた。でも、なんだかおかしい。静かなのだ。マスクをしていたからかもしれない。生徒の真ん中で挨拶をしていた先生が、久しぶりの修学旅行の再開に感極まり、声を震わせていた。

修学旅行って一応校外授業なわけなのだけれど、本音はお寺や名所を見たいわけじゃない。仲良しの友だちと朝も晩も一緒に過ごせるなんて! 夜通ししゃべったり、テンション上がって告白しちゃったり。もちろん行きたくなかったり不安がある子もいるかもしれないけれど、学生にとってはメインイベントだろう。

『アナザー修学旅行』(講談社、有沢佳映著)は、そんな修学旅行に行けなかった中学生たちのお話。足を骨折してしまい、楽しみにしていた修学旅行に行けなくなった佐和子。彼女は、同じように様々な事情で修学旅行に参加できなかった6人とともに、3日間の「代替授業」を受けることになる。そこに保健室登校をしている秋吉が加わり、普段なら交わることのない7人が、「修学旅行に行けなかった」という共通点だけで集められる。取り立てて、何が起きるわけでもない3日間の物語。

このお話がいいのは、そこから何が始まるわけでもなく、それぞれの日常に帰っていくところ。リアルだなあと思う。でもきっと大人になっても忘れない、キラキラした3日間。こういった何気ない思い出が、きっといつか人生を支えてくれる。

時は経ち、しっかり賑やかさを取り戻した東京駅。期待に満ちて嬉しそうな子どもたちの様子を見ると、ほっとする。今しかできない、かけがえのない体験をしてきてほしいなと思う。

(本紙「新文化」2025年11月6日号掲載)

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