小さな洋品店を営む知人が、どうにか売上げを伸ばせないかと頭を悩ませた末、営業時間の延長を試みたことがあったそうだ。店は2人でやっていたから、残業を交互にすれば、しばらくは続けられるだろう。値段を下げたり、広告を打ったりするよりはリスクも少ない。
しかし真夜中、国道沿いの洋品店を訪れるのは、眠気を覚ましたいトラックの運転手か、終電を逃した酔っ払いくらいしかいなかった。彼らを相手に、洋服が売れるはずもない。何より、眠るはずの時間に働くというのは、想像以上に体力と精神力を消耗することだった。
緊急事態宣言の解除後も、行政の要請により、飲食店は営業時間の短縮を続けている。必然、街が眠る時間も早まり、遅くまで開けていた都会の書店も、閉店を繰り上げざるを得ない状況だ。
店の営業時間は、夜に眠るという人間の習性をベースに、その店が最も効率的に利益を上げられるベストの時間を探って、調整されてきたはずだった。それがコロナの影響で、いったんリセットされたのである。
長期化が予想されるこの状態に、我々は慣れていくのだろうか。今は全く想像がつかないが、洋品店の話を聞くと、悪いことばかりではないような気がしないでもないのである。
(新井見枝香/HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)
(本紙「新文化」2021年4月15日号掲載)