第19回 カブティーの生き様

この間、新入学のフェアを引いたと思ったら、もう夏休み。6月の下旬には夏の商品が入荷してくる。本当に季節が巡るのは早い。うかうかしていたら、あっという間にクリスマスだ。

それにしても、この数年の自由研究キットの種類の多さには目を見張るものがある。手作りせっけんや泥だんごなど気軽にやれそうなものから、簡単なプログラミングで動かせるロボットやドローンがつくれるものまで! 大中小の3匹の魚にそれぞれ何枚の鱗がついているのか調べた私の小学生時代とは大違いだ。(模造紙に膨大な数の鱗を貼る作業がとにかく苦痛で、これを課題にしたことをものすごく後悔したのだ!)

私が子どものときから今もあるロングセラーキットと言えば、カブトエビの卵だろう。まだ、ジュンク堂書店池袋本店に勤務していたころ、カウンター脇の窓辺でみんなで飼育したことがある。乾燥した粉のような卵を水にいれると、数日後には小さな物体が数匹。共食いをするので仕切りを入れるように説明書に書いてあったが、ぼやぼやしているうちに最強の1匹だけになっていた。いつしか「カブティー」と名付けられ、脱皮を繰り返し成長していく様子を毎日毎日見守った。

ある日の朝、いつものように「おはよう」と水槽を覗き込むとなんだかおかしい。よく見ると、無数に動いているたくさんの脚の一番端のほうが止まっているのだ。仕事をしていても気が気ではなく、隙をみてカブティーのそばに行くのだが、だんだんと止まっている脚が増えていく。数時間後、カブティーの脚は完全に止まってしまった。出会って1カ月。突然の別れだった。カブティーは南池袋公園に手厚く葬られた。

コロナ禍、自分の生き方を見失っていたときに、ある作家さんがこのようなことを話してくれた。「災害も疫病も自然のなかのこと。そのなかで生き抜くものもあれば、なくなる命もある。自然のなかに生かされている以上、仕方がないこと。それを嘆くのではなくどう生きるかが大事」その言葉によって私は再生したのだった。その作家さんは舘野鴻さん。私の大好きな1冊は『がろあむし』(偕成社)。舘野さんの絵本は小さな虫に「必死に生きてみろ!」と鼓舞されているように感じる。そういえば、命尽きるまで動き続けたカブティーの脚は、生を全うしてやろうという意地にも見えた。

追い立てられるように過ごす毎日だけれど、一生をあっという間にぼんやり終えてしまわないように、たまには気を引き締めないと!

(本紙「新文化」2023年7月6日号掲載)

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