第2回 読書バリアフリー法とは

「読書バリアフリー法」、正式名称「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」が施行されたのは2019年。「読書環境の整備」とあるくらいだから、出版に携わる者なら知らずにいることはできないはずだが、施行後4年以上が経過した今なお、業界内に本法の存在や詳細が浸透しているとは言いがたい。

本法に先立つこと3年、16年には、障害者差別解消法が施行されている。これは「障害を理由とする差別の解消の推進」をうたう法律であるから、本来であれば、読書困難者の読書環境の整備も、この法律の施行で実現されていなくてはならない。それが不十分だからこそ、「読書環境の整備」をと、本に関わる者が無視できない名称・内容になったのが読書バリアフリー法である。いわば出版界が名指しで対応を迫られているのだ。

読書バリアフリー法は「障害の有無に関わらず、すべての人が読書による文字・活字文化の恩恵を受けられるようにする」ことを目指す法律である。くわしくは全文にあたっていただきたいが、アクセシブルな書籍・電子書籍等の量的拡充・質の向上、普及・提供が図られること、視覚障害者等(読書困難者)の障害の種類・程度に応じた配慮がなされること、などが求められている。

ここで、視覚障害者〝等〟となっている点に注目してほしい。

読書が困難なのは視覚障害者だけではない。四肢に障害を抱えていたり、発達障害で文字の読み書きが苦手だったりなど、読書の困難さにはさまざまなかたちがあり、必要とされる「本」の形態も一様ではない。

もう一点、重要なのは、本法では読者が「買う」自由と「借りる」自由の両方が担保されている点だ。出版関係者は本を売ることのみに関心がいきがちだが、紙の本を公共図書館や学校図書館で自由に借りることができるのと同じように、アクセシブルな書籍・電子書籍等にも「借りる」という選択肢が用意されなくてはならない。そのためには、コンテンツ自体が電子化されることに加え、電子図書館システムの導入など、インフラの対応も必要となる。

読書バリアフリー法施行から4年。障害者差別解消法は改正され、これまで民間事業者に関しては努力義務であった合理的配慮が24年4月からは法的義務となる。両法とも罰則がない理念法であることから、現時点ではとくに対応を考えていないという出版関係者も多いと想像されるが、法的観点、社会的要請という観点からは、すでに待ったなしの状況に来ていることは間違いない。

では、出版関係者は何をすればいいのか。次回からは、バリアフリーでアクセシブルな出版形態にどのようなものがあるのか、具体的な事例を紹介していきたい。

(木村匡志/小学館 アクセシブル・ブックス事業室)
(本紙「新文化」2024年2月15日号掲載)