第1回  おおきくなったらなにになる?

 本屋になりたかった……わけではない。選択肢の一つでもなかった。運命が変わったのは大学入試。希望学科への入学が難しく、同じ学部の別の科で手を打ったのが運のつきだった。
 うっかり入った芸術学部の演劇学科演技コースというところは、舞台と言えばミュージカルくらいしか知らなかった私には、かなりハードな世界だった。でも、人は慣れる。気づけば以前から志していたかのように、私は舞台女優だった。お金もなかったしバイトもたくさん掛け持ちした。そんな中でも何故か続いていたのが書店でのアルバイトだった。
 大学時代は池袋の旭屋書店でバイトをしていた。厳しかったのは公演ごとに取る長期休み。それまではテストだなんだ理由をつけていたが卒業すればそうもいかない。
 「お芝居してても雇ってもらえるらしい」そんな噂がたっていたのが当時できて数年のジュンク堂書店池袋本店だった。面接に行くと「お芝居やってるの。ふーん。明日から来て」と即決。噂は本当だった。私の後に面接した人はバイオリン経験者。やっぱり受かっていた。
 そんなこんなで私の本屋人生は始まる。いつしか女優も辞め書店員になっていた。稽古と公演の毎日で、その隙間に働いていた私は自分の時間を持て余していた。辞めてしまったけれど、色々な人を演じ表現するのは本当に楽しかった。

 とりあえず本屋の仕事の中で表現できることを探してみた。本について感じたことを伝える接客も店頭展開やイベントも、考えてみれば表現の一つだった。俄然仕事が忙しくおもしろくなっていった。それからは感じるままに興味があることには首を突っ込むことにした。肩書を気にしなければ意外に自由に何でもできた。
 『おおきくなったらなにになる?』(偕成社、F・セニョーボ作)という絵本がある。やってみたいことやなりたいものへの憧れや期待が隅々まで満ち溢れていて、読むたびわくわくする。だいぶ大きくなったけれどやりたいことはたくさんある。きっと私はまだまだ何かになりたいのだ。
 流されるまま生きてきた私だけれど、どんな場所に置かれてもいつも本だけはそばにあった。日々の冒険や、共にその伴走をしてくれる本のこと、お話していけたらと思う。
(本紙「新文化」2022年1月13日号掲載)