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失われた屋号を求めて
第9回 古くてあたらしい仕事
床にペタンとお尻をついて、自分の背丈より高い本棚いっぱいにつまったたくさんの絵本を前に目を輝かせている。「なんでも好きなものを1冊選んでおいで」と、隣りの部屋から両親の声がする。小さい頃を思い出すとき、いつでもいっとう […] -
本屋の新井です
第15回 本末転倒が転倒
先日、2泊3日で山形県の肘折温泉に出掛けた。体の痛みや疲労回復などに高い効果があるとされ、本気の湯治場としても有名である。湯治とは本来、療養目的で長期間滞留することだ。たった2、3日では、旅の行き帰りの疲れが温泉の効果 […] -
本屋の新井です
第14回 私の持病(2)
2年ほど前に前歯を差し歯にしてからというもの、どうも取れて取れて仕方がない。相当注意して食事をしているが、それでも取れる。これもまた、不治の病だろうか。(前回参照) 引越しをして遠くなったため、近所のデンタルクリニッ […] -
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第8回 旅の道づれ
空港の土産品売り場の一角に、ひっそりと本が売られていた。新刊話題書や旅行書が並べられた棚の奥にさらにひっそりと、文庫本コーナーがあった。平台から天井まで伸びる棚が2本。著者の名前順にいろんな出版社が乱れて並ぶ色鮮やかな […] -
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第13回 私の持病
ポストに封書を投函できないまま、もう2週間も経ってしまった。ラブレターではなく請求書なので、躊躇っているわけではない。白かった封筒は鞄の中で黒ずみ、ボールペンで書いた番地が、何かの水分で滲んでいる。電車で行けば30分も […] -
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第12回 ディストピア書店
ディストピアといえば、小説読みにとっては、文学の魅力的なカテゴリのひとつである。理想郷とはかけ離れた近未来が、空想の絶望ではあっても、現実社会の延長線上にあるように感じてならなかった。そして先日、西の方へ旅に出た際、つ […] -
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第7回 コンプレックスに本
勉強やスポーツができなくて悔しい思いをする、という経験をあまりしないまま10代を過ごした。と言うとまるで自慢のようだけどそうではなくて、いまなお根深く私の性格や言動に影響を及ぼし続けるコンプレックスの話である。 何事 […] -
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第11回 今はどんな気分?
本を自分の手で売るのではなく、「私のオススメはこれです」と選書だけする仕事がどうも苦手だった。遠すぎて見えない賽銭箱に、振りかぶって誰かの大事なものを投げるような後ろめたさがあるのだ。 先日公開された大塚製薬「エクエ […] -
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第10回 エーゾーはエーゾー
こまめに追加注文をかけて、長く平積みを続けている小説の文庫本が、ある日突然、知らない人の顔写真に包まれて納品されるとギョッとする。美しい装画は、ロング帯で大半を隠されていた。別に映画化が決まったから、発注したわけではな […] -
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第6回 光をあてる
小説を、書こうとしたことがある。まずは登場人物を考えようとノートを広げ、いくつかアイデアを練った段階でぴたりとペンが止まった。紙の上とはいえ、過去も未来もあるひとりの人間を現出させるには、もう一度初めから人生をやり直す […] -
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第9回 うろんなはなし
あの、やけに軽いプラスチックケースめ。店頭に陳列している、CDのダミーだ。呼び名からして悪役っぽく、中身が胡乱なところが嫌である。レジで受け取ったそれを見本に、ストックから商品を探すのだが、実際は倍の厚みがあったり、二 […] -
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第8回 そういうことじゃないんだが。
「お1人様1冊限り」と表示している商品を、レジに1冊ずつ何度も持ってくる人がいる。並び直せば生まれ変わって別人になります、という謎設定に付き合う義理はないが、そこまでする人はそれを相当欲しいはずなので、下手に指摘すると […] -
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第5回 CONTINUE?▸YES NO
サァ、ボウケンガハジマリマス。ナマエハナニニシマスカ。 主人公の名前はヒカリ。「ポケットゲーム」と呼ばれるゲーム機(昔のゲームボーイみたいな)をいつも持ち歩いている。そしてタケムラとイシとイクコ。4人はともに中学生で […] -
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第7回 女性専用?
うっかり女性専用車両に駆け込んだ男性は、女性たちに睨まれて当然なのだろうか。周囲が女性ばかりであることに気付くと、気の毒なほど身を縮めていた。 その時の違和感は、山崎ナオコーラさんの『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光 […] -
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第6回 エッセイはこちらです
エッセイって何ですか?なんて書店員がいたら、マジかよー! と頭を抱えるが、私は今、エッセイの棚作りに頭を抱えている。マジで。 今働いている書店には「のんびり読む本」という棚があり、比較的のんびりとしたエッセイはここへ […] -
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第5回 太宰治と嵐
太宰治の「人間失格」は版権が切れているため、複数のバージョンが存在するが、基本的に内容はどれも同じだ。しかし嵐の新作CDは、同じ会社が同じ日に同じタイトルで、初回限定盤の1と2、そして通常盤をリリースするのである。どれ […]