懐かしい音楽とともに真っ赤な緞帳が上がる。それだけでもう胸が震え、涙がこぼれそうになる。姪の希望で上田までミュージカル「アニー」を観に来たのだ。
初めて観たのは、多分初演かその次の年。同じ年齢の子どもたちが舞台の上で輝いているのが本当に羨ましくて「踊りは踊れなくっても、歌ならちょっと歌えるから、受からないかしら」と新聞のオーディションの広告を見てはため息をついていた。
手元にはぼろぼろになったパンフレットが今も残っている。当時の子役たちの情報は何度も何度も読んだ。余談だけど、初演と2年目のアニーを務めたのは、菅野(山尾)志桜里さん。今ではアニーの印象は全くないけれど、TVで観るたび、パンフに載っていた12歳の彼女がチラついてしまう私。ちなみに、今年なんと40周年を迎えるとのこと。孤児たちのメインキャストの数が減っていたり、重要な役割の犬・ サンディが、オールドイングリッシュシープドック(「アニー」で初めてこの犬種覚えた人も多いのでは?)ではなく、雑種の小さめの犬になるなど、多少の変更もあったけれど、変わらず子どもたちを憧れさせる、アニー。
帰り道、姪と手を繋いでミュージカルナンバーを繰り返し歌う。登場人物の年齢を優に超えてしまい、私は手に入れられなかったものを、姪は今、キラキラした目で見つめている。いいなあ。軽く、嫉妬を覚える。本当にいいなあ。アイルランドの血を引く彼女は目鼻立ちもくっきり。手足も長くダンスも得意だ。悔しい。
「でも、歌は私のほうが上手」
そっと10歳の自分を慰める。
孤児のアニーが両親を探すため孤児院を抜け出し奮闘する。その持ち前の明るさで、出会う人々に影響を与えていく。劇中の名曲「Tomorrow」でもわかるようにとにかく前向き。大人になってあらためて観ると、「朝がくればいいことがある」と歌い上げられてルーズベルト大統領がニューディール政策を思いつくとか、ないよなあと思ってしまうけれど……。でも、仕事をしていくうえで無謀そうなことでも、とりあえず挑戦しようと思えるのは、子どもの頃に培った「アニー」の精神のおかげなのかも。ありがとう、アニー。
久々に『アニー A novel based on the beloved musical!』(あすなろ書房、トーマス・ミーハン著/三辺律子訳)を読んで反芻しよう。ライバルの姪と同じくらい、私の明日もまだまだ輝きますように!
(本紙「新文化」2025年9月4日号掲載)