本当に忙しかった今年の夏。自分を取り戻す旅をしようと2泊3日の旅行に出ることに決めた。行き先は関西。大好きな作家さんや業界関係者がたくさんいる。片っ端から会いに行って、元気をもらおう!
新幹線のチケットも手配し、ウキウキの8月中旬。テレビでは連日万博の特集をやっている。「最後だし、行ってみる?」
と夫。そういえば、関西一人旅のこと、言い忘れてた! 「実は来月行くんだよね。予定は色々あるんだけどさ。1日目なら空けられるかも……」
というわけで、急遽万博行きが決まったため、会いたい人に会いに行くツアーは弾丸1泊2日となったのだった。
2日目、夫と新大阪で解散し、須磨に住む作家夫婦のところへ。はじめて、淡路島を望む。眼の前に広がる海にテンションがぶち上がるも、滞在2時間で梅田に戻り、別の作家さんたちとディナー。駆け足だったけど、たくさんおしゃべりして、たくさん笑って、本当に楽しかった。
最終日のメインイベントは神戸で開催中のスズキコージ「聖魔よせ展」。魔除けじゃなくって「魔よせ」! コージさんに招魔された人が次々とやってきて、最高の空間だった。展示物は立体作品。少し前から、コージさんの目は見えなくなった。もともと悪かった目を20年ほど前に手術したとき、「キミたちの肌の色がどんな色だったかやっとわかったよ」と笑っていた。直後に出版された絵本は今までの色彩とはぐっと変わっていて、本当にワクワクした。
そのなかの一冊が、『ブラッキンダー』(イースト・プレス)。私の好きな『大千世界のなかまたち』(福音館書店)にも出てくるインクの壺からあらわれたブラッキンとサボテンのサンダーちゃんとの自由な冒険絵本! 美しいマゼンタピンクがページからこぼれ落ちそう!
どんな状況でも進化が止まらないコージさんは、今は立体作品を生み出し続けている。
「手が動くままにつくってるんだよ。大脳を使ってないからね。みんなは大変と思っているかもしれないけれど、集中できて楽しいの。ベートーベンは44歳で耳が聞こえなくなったけど、そのあといい曲をたくさんつくったでしょ。ぼくはダブルセブン(77歳)、楽勝だよ」
そう言ってのけるコージさんは本当にかっこいい。
新幹線の時間ギリギリまで乾杯しようとコージさんが連れて行ってくれたのは、84歳の元歌手が店主のジャマイカ料理のお店。万博で全然食べれなかった異国の料理に、神戸でありつけたのだった。
(本紙「新文化」2025年10月2日号掲載)

