EHONSのInstagramに中文の長いメッセージが届いた。通販や海外発送のお問い合わせがほとんどなので、今回もその類だろうと思っていたが、それにしては長文だ。ChatGPTに翻訳してもらう。
「こんにちは。私は台湾からの旅行者で、1ヶ月前にお店にうかがいました。店内が暖かく快適だったため、子どもがかぶっていた帽子を脱ぎました。翌日、帽子が失くなっていることに気づき、写真を確認すると店内のどこかに置き忘れた可能性が高いことがわかりました。どうか、子どもの大切な帽子を見つけるお手伝いをしていただけないでしょうか? もし見つかったら、着払いでかまわないので送ってもらえないでしょうか?」
というような内容とともに、くまの耳がついたかわいい帽子をかぶった、お子さんの写真が添付してあった。
ひとまず、店内で確認。該当日時に忘れ物記録を見つける。ただ、ひと月も前のできごと。千代田警察署を経て、現在、飯田橋の遺失物センターにあることがわかった。本来なら、ここでお客様に連絡しご自身でお手続きをしていただくのが筋なのだけれど……。台湾にお住まいで、着払いでもいいからと返送を望んでいる、だいじな帽子。このまま放っておくと、保管期間をすぎてしまい手元に戻すことは難しい。
帽子をなくした日付、よく見ると、先月の台湾出張の直前ではないか。あーあ! すぐ、気づいて連絡くれていれば、帽子はまだお店で保管していて、台湾に私が持っていけたのに! といってももう遅い。まてよ。ふと思い立ち、これから社内で誰か台湾に行く人がいないか聞いてみると、3日後行くという人が!!
お昼休み半分犠牲にしたら、遺失物センターに行けるかも!慌てて警察署に電話する。受け取るためには、遺失物届と本人以外の場合には委任状が必要になるという。警察著のホームページとにらめっこして遺失物届をオンラインで提出する。ChatGPTを駆使して、中文のメールを何通かやり取りし、無事、委任状をもらうことができた。そして、台湾に新しくできたお店で帽子を受け取られることになった。
メールを読んだ時、真っ先に浮かんだのは、佐野洋子さんの『わたしのぼうし』(ポプラ社)。もう手元にないのに焦がれて焦がれて。なんでこれじゃなくちゃならないんだろうと思うんだけど、だめなものはだめなんだよなあ。
遺失物センターの係の方が、
「かわいい帽子ねぇ」
と差し出してくれた。くまちゃんの使い込まれた帽子。これから海を渡ります。待っててね。
(本紙「新文化」2025年5月1日号掲載)