第20回 「韓国コンテンツは国策で成功」論の虚妄

「韓国のエンタメ、コンテンツ産業は国策で成功している」という論調が、日本には根強く存在する。ウェブトゥーンもそのひとつだと言う人がときどきいるが、それは的外れな見立てである。

日本の文化産業支援政策と比べれば、韓国のほうが手厚いことは確かだ。韓国では、翻訳に対する助成、国際的なブックフェアなどイベントへの出展資金の支援、クリエイターが制作に使う施設の貸出、産業分野別の無料閲覧可能な年次調査報告書の作成等々は、日本よりも充実している。しかしこうした支援だけで国内産業の育成や輸出がうまくいくなら、クリエイターも企業も国も苦労はしない。

時系列から確認しておこう。韓国で文化産業振興法が施行され、実写映画、アニメ、ポピュラー音楽、デジタルゲームなどのメディア産業に政府が直接投資し、政策を促進すると打ち出したのは1997年である。

中国の韓流ブームは、同年放送されたドラマ「愛が何だ」「星に願いを」に端を発する。韓国で法律ができた年にすでにブームが起こっているのだから、それが政府支援の効果だったはずがない。このときもその後も、基本的にコンテンツ制作者と海外販売に携わった民間人の尽力の影響のほうが圧倒的に大きかった。

また当時の政府がもっとも期待し、人材育成のため各地の高校・大学に多数の学科を設けた分野のひとつはアニメだった。だがそれから30年近く経った現在も、韓国のアニメ産業は未だ国際的な競争力を持ち得ていない。「国策で成功した」という論者は、こうした事例についてはどう説明するのだろうか。

今でこそ海外市場を開拓した韓国漫画・ウェブトゥーンも、2010年代初頭までは、「ドラマやK-POPと違い韓流ブームに乗れなかった」として、輸出産業としては負け組扱いだった。

文化産業振興法ができた1997年は、強力な表現規制をもたらした青少年保護法が制定された年でもある。それまで10代向けに流通できた内容の漫画の多くが19禁とされ、見せしめ的に大御所作家、イ・ヒョンセの漫画が、性表現に問題があるとして摘発された。その影響で大型書店から漫画が一時期、一斉に撤去されている。

その後も、2013年~17年に大統領を務めたパク・クネ政権では、約1万人もの文化人がブラックリストに加えられ、「政権に批判的」だとみなされて活動に助成金を与えられないなど、圧力がかけられた。いわば「片手で背中を押しながら、もう片方の手で足を引っ張る」のが、民主化以降の韓国の文化産業政策の実態である。

現場の人間のなかには、支援政策に関わる韓国コンテンツ振興院や、地域振興目的で行われる地方の漫画・ウェブトゥーン関連イベントを仕切る一部役人たちの杓子定規的な役所仕事ぶり、支援政策に充てられる税金に群がる利権の亡者の暗躍などに対する批判の声が少なくない。

実際にはむしろ政府の側が、民間事業者の生み出した影響力を国家のソフトパワーとして、「自分たちの施策の成果」のように謳っている面が大きいのである。

日本の「国策のおかげ」論者は、「韓国コンテンツは政府のゴリ押しにより売れている」として批判したいのだろう。だがその実、政府の力を実態より過大に見積もり、結果、韓国の政治家や役人の思惑通りになってしまっていることには無自覚だと言わざるを得ない。

(本紙「新文化」2025年5月1日号掲載)

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